世界的ジャズ・トランペッターである近藤氏が、その生い立ちをさまざまな音との出会いに重ねて綴(つづ)る、一風変わった自伝的絵本です。
愛媛県は今治が面する来島海峡に渦巻く潮のとどろきを胎内で聴き、生まれては海面に映える星や月の光の合唱を子守歌に育つ少年の日常は、さまざまな音に囲まれていました。
その源を海に発し、大気中を飛び交う精の気配。鉄が打ち合わされ、火花が散る造船の街の活気。妖(あや)しげな大衆芸能の旋律…。自然と、そこに暮らす人間たちが共鳴しあって生み出す音という音が、神秘的に、猥(わい)雑に、そして形をともない、力強いエネルギーのうねりとなって、少年の体内に織り込まれていったかのようです。力強く独創的なジャズ奏者として活躍する氏の原点は、まさにここにあったのです。それを紙上縦横に再現するのは、近藤氏と同郷同窓の洋画家、智内兄助(ちない・きょうすけ)氏。日本画とみまがうトリッキーな技法で幻想的な世界を表現して、強烈なインパクトを読者の網膜に焼き付けます。音と色彩の、フリー・セッション。その世界の豊かさ、力強さに圧倒される一冊です。
【今週の絵本】『ぼくがうまれた音』近藤等則/文、智内兄助/絵、福音館書店/刊、1890円(税込み)8歳〜(2007年) |