ただよひてみゆ
かなしき心象
なみださへ
その青黝の辺に
消えゆくらし。
〔現代語訳〕悲しい心象が漂っているのが見えます。涙さえ、その青黒い辺りに消えてゆくようです。
〔評釈〕「冬のフケッチ」三九の五区切りの最初。ここでは、「短歌」として認定できるか否かの境界線上にある作品を取り上げようとしているわけであるが、抽出作品は、その境界線上のうち、認定困難の側に傾きそうなものであろう。まず、全体が五つの区切りとなっているから、短歌の「五つの積み重ね」という条件には合致していることになる。しかし、その音数を数えてみると「七八五九六」となっている。まず冒頭の七音は、賢治の「短歌」と「文語詩」を分ける指標の一つである。(「文語詩」の多くは七音で始まっている。)次に第二句・第四句が、それぞれ八音、九音の字余りである。しかも結句が六音という字足らずである。以上からすると、やはり「賢治短歌」とするのは困難であろう。
(盛岡大学学長) |