2008年 3月 10日 (月) 

       

■  〈賢治の歌〉1044 望月善次 ある年の気圏の底の

 ある年の気圏の底の
  春の日に
  すぎとなづけしいきものすめりき
 
  〔現代語訳〕ある年の気圏の底に差す春の陽を浴びながら、杉と名付けた生き物が住んでおりました。

  〔評釈〕「冬のスケッチ」四〇の五区切りの二つ目。このままでは、「短歌」そのものであるが、その前に置かれているものは「葉をゆすり 葉をならし/青ぞらにいきづけること明らかけし。」であるし、次に置かれているものは「そらの椀/ほのぼのとして青びかり/気圏の底にすぎとなづくる/青きいきものら/さんさんといきづき 葉をゆする」であるから、抽出した部分を「短歌」と断定することについては、慎重な検討が必要となろう。「冬のスケッチ四〇」の全体からは、「青きいきもの」としての「杉」が取り上げられているわけであり、その中での「青」という色は重要なものであろう。しかしながら、抽出部分の短歌形の中には、その重要である「青」が明示されていないことにも注目した。

(盛岡大学学長)

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