2008年 3月 11日 (火) 

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉39 及川彩子 時代の音を守る職人

 今イタリアのピアノ業界も日本製品花盛り。楽器店には、ヨーロッパの伝統的ピアノメーカーを尻目に、カワイやヤマハの製品がずらり並んでいるのです。

     
   
     
  我が家のピアノは「ホフマン」というウイーン製。10年程前にアジアゴ近郊の町バッサーノの小さなピアノ店で、古風な音のピアノを見つけたのです。

  購入した当時、すでに半世紀以上も前の中古ピアノだったので、湿度の変化によってハンマーの調子が悪くなることもありますが、素朴な音が気に入り、愛用しているのです。

  バッサーノは、アジアゴからヴェネチア方面に車で30分。ヴェネチア貴族に愛された陶器や、ブドウの絞りかすを発酵させたグラッパというアルコール度の強いお酒が名物で、まさに職人の町です。

  そこに店を構えるシルヴァーナさんが、先日もピアノの調律に来てくれました〔写真〕。音の立ち上がりから響きまで、丁寧に調節する彼女と音楽情報を交換しながら、いつもあっという間に3、4時間過ぎてしまいます。

  彼女の家は代々ピアノ修理の職人さん。ヨーロッパ各地に眠っている楽器をよみがえらせるためひいおじいさんが工房を開いたのです。

  工房には、100年前のカイザー(皇帝)と呼ばれるベルリン製のピアノ、猫足で蜀(しょく)台付きなど骨董(こっとう)ピアノが所狭しと並んでいます。

  イタリアには、調律師養成学校はありません。彼女も高校卒業後、お父さんから技術を受け継ぎ、あとは経験から腕を磨いてきました。お父さん亡き今は4代目の大黒柱です。

  「日本製は大量生産しても質がそろっていて素晴らしいわ」と言う彼女。けれども彼女の使命は、楽器の歩んできた歴史と性格を尊重し、時代の音を守ること。マエストロ(職人)と呼ぶにふさわしい彼女とのふれあいも私の宝になりました。

  いつか鍵盤からこぼれ出る時代の「言葉」が聞けたら、と思っているのです。

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