その夜のセッションライブは、最高潮に達していた。関西では屈指のベーシストであるN氏がオーナーのライブスポット。毎月定例で行われているN氏のトリオ演奏に、テナーの僕はゲストで呼ばれた。N氏とは旧知の仲、過去何度も一緒にプレイしてきた。N氏は、とにかくジャズ大好きで、あけっぴろげで、とても熱い男だ。その熱さの余り、時々脱線する。
「じゃ、○○をいくか」といってカウントをとった。G(ジー)のブルースだ。テーマをとってアドリブに入る。しばらくアドリブをやっているとどうもしっくりこない。ピアノの方を見ると、彼も腑に落ちない顔をしている。
N氏をみると、ウッドベースを力いっぱい弾きながら、顔をこちらに向けた。
「いやぁ、ジャズっていいなぁ、楽しいなぁ」満面の笑みを浮かべながら言う。
コード進行を決定していくのは、ベースラインなのだが、その音がしっくりこないのだ。
のりきれないまま、ピアノにソロを渡した。ピアノも弾きにくそうにソロをとった。
N氏だけが楽しそうに、ベースを弾き続ける。
「おい、キーなんでやってる」僕はたまらず聞いた。
「なにって、C(シー)やんか」
「おい、キーが違うぞ、G(ジー)や」
「あっ、そうや、勘違いや。すまん、すまん」
テナーマンから聞いた、本当にあった話である。 |