2008年 3月 15日 (土) 

       

■ 〈賢治の歌〉1049 望月善次 方十里稗貫のみかも

 方十里稗貫のみかも
  稲熟れてみ祭三日
  そらはれわたる
 
  〔現代語訳〕十里四方、この稗貫地方だけでしょうか。稲は熟れて、(この)鳥谷ヶ崎神社の秋祭の三日間の空は晴れ渡っています。

  〔評釈〕言わずと知れた絶筆二首の一つ。長らく、読み解いて来た賢治短歌もその大体を網羅したので、ひとまず区切りをつけることにしたい。その終わりには、この絶筆二首を取り上げたい。賢治昇天前日である一九三三(昭和八)年九月二〇日水曜日のことであった。半紙に墨書されたものであるが、その前の状況を『新校本全集』は「政次郎も最悪の場合を考えざるを得なくなり、死に臨む心の決定を求める意味で、親鸞や日蓮の往生観を語り合う。」と記す。「稗貫(ひえぬき)」は、賢治の住む花巻などの旧郡名で、元はアイヌ語であるとも言われるが、その地方を治めていた稗貫氏による。「祭」は、鳥谷ヶ崎神社の秋祭のことで、このころちょうどその祭であった。短歌的には、十分に練れた作品というわけにはいかないが、後年を農民の上に賭けて来た賢治の豊作への思いは伝わってくる。
(盛岡大学学長)

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