一日で幾百万回シャッタ
ーが押さるるや千島ケ淵
の桜に
奥村晃作
花の四月を迎えた。桜前線の北上はそぞろ心を騒がせる。東京では今、満開という。
長女から電話で、「まだ新幹線に乗らないの?」と笑われた。いつも突然新幹線の中から電話をしてあわてさせるのだが、数年前の日曜の朝もそうだった。婿どのの妹さんの出産祝いに行くというのに便乗して、お花見とお祝いといっしょに東京の春を愛でたことだった。
千鳥ケ淵の桜。人、人、人で、本当に幾百万回のシャッターが押されるやら。靖国の桜は外からだけ眺め、九段下から千鳥ケ淵は、花のあわいから仰ぐ空に平和の陽光が降り注ぐ。お釈迦さまの生まれた日に誕生し、その名も「はな」と命名されたみどりごを見てきた日に、千鳥ケ淵の桜はまぶしく輝いていた。
「強風の中にもまるる桜花一ひらすらも萼(がく)を離れぬ」これも事実。花は咲くべくして咲き、決して萼を離れぬ期間がある。寒気温気をくり返し、満を持して咲ききった命の輝き。こんな一瞬、あやかしの桜伝説がよみがえる。しかし、散らぬ桜のあるわけもなく、われに返り、「満開の桜の花を読んだなら引き続き散る花も詠むべし」とつぶやく作者。「どれだけの距離を飛ぶのか風に乗りちさきピンクの花びらの飛ぶ」と、自在に舞い飛ぶ花びらのゆくえを追う。口語のリズムが軽やかで快い。
現代口語短歌の第一人者で東京都下の高校教諭を退職。「丸三年書き継いで〈完〉と記したり『賀茂真淵論』千余枚」とも詠まれる文学者で歌歴も長く、以前は文語体で通してこられたが、平成11年刊行の第七歌集より全部新仮名に改められた。その経緯について、「ツール(道具)の変化に対応したのが直接の原因。今の世の中、わたしもキーボードライティングに転じた。何事においても「自然体」を旨とするわたしのおのずからの選択であった」と述べられる。「スノボーのガガガガガガのガガ滑り危うくわれは接触を避(よ)く」滑舌の妙、まさに口語短歌の面目躍如の一首である。
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