【啄木の短歌】
いたく錆びしピストル出でぬ
砂山の
砂を指もて掘りてありしに
〔『一握の砂』4〕
〔現代語訳〕非常に錆びたピストルが出て来ました。砂山の砂を指で掘っていましたら。
【賢治の短歌】
雲よどむ
白き岩礁
砂の原
はるかに敷ける褐の海藻(びらうど)
〔「歌稿〔B〕」562〕
〔現代語訳〕(空を覆っている)雲は動かずにいて、(その下の浜は)水中から顔を出している白い岩と砂原が続いています。そこに見渡すほどに褐色の海草が敷かれています。
〔評釈〕歌集に収められている作品については、前後にどんな作品が置かれているかを無視して該当作品のみを論ずるわけには行かないから、簡単な説明を加えると、啄木作品は『一握の砂』冒頭の所謂「砂十首」の中の一首で、賢治作品は、岩手県宮古市の景勝地、浄土ケ浜を歌った作品群の一つ。賢治作品は、叙景的作品。初句の「雲よどむ」と第二句以降の繋がりがぶっきらぼう(端的に叙述が「乱暴」なのだと言ってもよい。)なのも賢治らしい。啄木作品も一見、叙景的作品かと思わせるが、少し冷静な読者ならすぐ気づくように、ピストルなど簡単には出て来るはずはないのである。それなのに、何の違和感もなく、流れるようにその作品世界に引き込まれて行く。啄木の芸の恐るべき所以(ゆえん)であろう。
(盛岡大学長)
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