日本児童文学の母、石井桃子さんが亡くなりました。101年の生涯が、そのまま日本児童文学史と重なっていただけに、茫漠とした寂しさは禁じ得ません。しかし、石井さんのまかれた種は立派に芽を出し、育ちました。そして、新しい読者はこれからも生まれ続けます。あとを引き受けた私たち親が、その広範、膨大な業績の末端に連なるさまざまな立場の人間が、これを守り、育てていくことを、肝に銘じなければならないのです。
今週のご紹介「ビロードうさぎ」は、石井さんの手になる数ある翻訳作品のなかでも、名作の呼び声高いタイトル。親しみやすく、かつ気品あふれる文体でつづられるのは、友情と、再生の物語。クリスマスにプレゼントされたたくさんのおもちゃの中から選ばれ、毎夜の会話を重ねてはぐくんだ、少年とぬいぐるみのウサギの、温かく、かなしいエピソードです。ぬいぐるみを対等のパートナーとして遇する少年の無垢、いつか「ほんもの」になる日を信じて待つ、うさぎの純情。「みにくいアヒルの子」にも似たアイデンティティーの自問や文明批評も織り込まれ、老若、読み手によって異なる感動が呼び起こされる作品です。
【今週の絵本】『ビロード うさぎ』M・ウィリアムズ/文、W・ニコルソン/絵、石井桃子/訳、童話館出版/刊、1470円(税込み)8歳〜(1922年)
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