2008年 4月 12日 (土) 

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉79 物見山(ものみやま、870メートル)

     
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  ぼた雪がホホに張りつく。物見山は、霙(みぞれ)にしごかれていた。けれど、もう春なのだ。じきにそれもやむだろう。

  種山という名で親しまれる「物見山」は、一等三角点を設置した「種山ケ原」の最高地点である。遠野市・奥州市・住田町は、その三角点から三分される。辺りには大森山(820メートル)・丸森山(725メートル)・夕日山(745メートル)・大鉢森山(773メートル)が、あるいは名もなき星々のような草原が、ぐるりと物見山をとり巻いている。地図からは、赤岩沢や高津沢・藤沢・千能沢・アズ沢・畑沢など、見たこともない小沢が読みとれた。

  物見山南面に付けられた小径(みち)や広場はいりくみ、初めての訪問者にはちょっとややこしい。そこで、国道397号の住田町側にある道の駅・種山ケ原ぽらんに寄り、小径・広場・ハウス・案内や見どころなど、イラスト入りで描いた散策ガイドマップを入手したい。常に現在地を確認できる1枚なので、もらっちゃおう。

  私は、温泉のある「遊林ランド種山」に車を止め、早春の物見山へ歩きだした。直さんは調子よく、あっちだこっちだとスノーシューですいすい進む。ワカンを履く私は沈みがちでかなり分が悪い。糸の切れた凧(たこ)じゃあるまいし…と、なにやら腹も立つ。そうこうしているうちに雨雪量観測所・物見山レーダーの白いハウスが見えてきた。気をとり直し、私は一気に最高点に登った。

  風景の仕掛けに見入る私を邪魔するものは、もはや何一つなかった。物見山は準平原の平らな地表に孤立して突出するモナドノック、つまり残丘だという。

  明治時代に設置された花崗岩の三角点は、頭部の一辺が18センチメートル(埋没部は21センチメートル)の正方形で、長さ82センチメートル、重さ90キロの四角柱である。なぜか北上山地のすべてがぐるぐると、私の立つ物見山を中心に回っていく。そうか、物見山の三角点はただの一等三角点じゃない。北上山地を束ねる北極星なのだ。
 
  詩「高原」の中で賢治は、種山ケ原の印象をこうも詠む。

  「海だべがど おら おもたれば やっぱり光る山だたぢゃい ホウ」−−巨岩は鯨に、「巨人の左足」はガリバーの一歩に見え、私にも大海原が感じられた。

  残雪が消えて、物見山はすぐにお花の小径になるだろう。カタクリの径・ラリックスの径・タネリの径・ベイゲラの径、イリスの広場・アザリアの広場…どこをどう歩いても賢治とともにある。

  星座の森ではコテージ、オートキャンプ、レストランが充実している。見上げてごらん夜の星を。マントをなびかせ、風の又三郎がピューッとやってくる。

(版画家、盛岡市在住)

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