2008年 5月6日 (火) 

       

■  〈口ずさむとき〉71 伊藤幸子 「給食さん」

 子の日記に書かれしわれ
  は子育てのまつ只中に生
  き生きとあり
小坂喜久代
 
  ゴールデンウイークまっただなか、5月は子の日母の日イベントがいっぱい。行楽地には家族づれがあふれる。すぎて思えば、夢中だった子育てのころがなつかしい。掲出歌は母の日の絵日記か何かであろうか、生き生きと働くお母さんの姿が思いうかぶ。

  作者は兵庫県明石市で学校給食調理員として長く勤められ、平成8年第一歌集「指ほそくあれ」を上梓。連作「バイク通勤」にて、自治労文芸賞短歌部門受賞。そして同「マンガ大笑」受賞の男性に似顔絵を描いてもらい、それを表紙に使ってなんともほほえましい本になった。

  「職員室に〈給食さん〉とわれを呼ぶ 給食さんわれは〈ハイ〉と応える」職員室に居ても、固有名詞ではなく常に「給食さん」と呼ばれる立場。ある日、そこにテレビ取材がやってきた。「千枚のトンカツは豚何頭分?不意の質問にあはてふためく」千人の児童の給食を作る調理師さん達、せめて事前の打ち合わせでもしてくれればよいものを。「念願のドライシステム調理室の青写真竣(な)る震災の後」阪神淡路大震災の直撃からはや13年も経過した。

  抄中の「バイク通勤」は痛快だ。「後戻り出来ぬ不可思議バイクとふ分身を最も身近に置きて」と詠み、「親指に触るればらんぷ点滅しちつたちつたと左折を示す」おかしくて楽しくて、「チッタチッタ」の語感が実にいい。このひらがな文語表記が如何にも女性の分身としてぴったりとなじみ、私の大好きな暗誦歌。「しんしんと人の恋しき信号の彼方は赤き赤き落日」源氏平家のいにしえから、明石の海辺は名舞台。ときに愛車を止め目をあげると、彼方の海は赤々と染まっている。長い歌歴につちかわれた王朝風の調べにひきこまれる。

  そして歌集のタイトルともなった「外し置く結婚指輪彼(か)の時の懐かしきかな指ほそくあれ」の一首。常に子供達の食を預かる自信を持たせてくれた小坂さんの指は、いつお会いしてもはつらつと輝く笑顔のように美しい。

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