■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉81 高下岳(こうげだけ、1323b)
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西和賀町沢内、貝沢野の西側に「高い低い」という意味をあわせもつ高下岳はある。和賀岳自然環境保全地域をになう雪深き山峡の頂だ。雪解けとともに、和賀川源流と大荒沢川の2本の渓流に豊富な水を供給。山頂直下からは、南方へ高下川の清流を引いている。
高下岳にはこれといって突出したピークがない。どちらかというと、長い尾根の最高地点に行くという感じで登る。「高下」というからには、どこかが高くて、なにかが低いはずだ。名前に託されているモノは何か。わたしの高下岳は、現場でヒントを拾うミステリーの山行だった。
青い山肌に残る残雪のコントラストが素晴らしい。県道1号線からまぢかに見る山容は、初夏、バランスの良い山岳美を見せつけた。けれど、手前に続く貝沢牧野が、どことなく荒涼として物悲しい。
もともと貝沢野は扇状地形である。大荒沢川の「大荒れ」が貝沢野を形成したのだ。高いと低い−−そうか!このまったく違う二つの要素が合体することで、高下岳の風景は完成する。私見だが、このことから「高い山」に対する「低い貝沢野、もしくは沢」をまるごと命名したのではないか、と推理できた。
高下岳周辺にはマタギが活躍していた時代があったと聞いている。人間とクマが、生死のドラマをくりひろげた山ひだは、のぞいただけで恐ろしいほどの高低差だ。勢子(せこ)に太鼓や大声ではやし立てられたクマは、険しい地形に逃げ場を失い、やがて銃口の狙ったその一点へ追い詰められるほかなかったろう。
「アベさんの靴にあったら、あげるよ」小ぶりで軽いワカンを平野さんからもらったのは、かれこれ十数年前であった。貝沢集落に住むクマ撃ち名人が、30年前にこさえたものだ。マンダの木で造られたそのワカンは、履くと身体になじむ。「これさえあれば下山できる」冬山に入るわたしのよりどころであった。
高下岳への登山口は3カ所あり、いずれも県道1号線の標柱を目印に、西へ入る。往復10時間かかる貝沢コースは全長8キロメートル。前山分岐、県境分岐をへて、アップダウンをくりかえしながら、展望のいい大荒沢岳―根菅岳と歩く。
高下コースは和賀岳登山口から登る。高下川沿いの林道を8キロメートル行って駐車。急登でいきなり高度をかせぐ。高下分岐からは樹林の尾根歩きが楽しい。
高畑コースは、バス停「上大荒沢」の角から林道を進み、3・6キロメートル地点の左手が登山口だ。高下岳南東支陵線を3時間かけて登る。こちらは2万5千分の1の地形図に記載されていないが、しっかりした径(みち)で迷わない。 |
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