2009年 1月 1日 (木) 

       

■ 〈啄木の短歌、賢治の短歌〉110 望月善次 元日の歌

 【啄木の短歌】

  腹の底より欠伸もよほし
  ながながと欠伸してみぬ。
  今年の元日。
     〔『悲しき玩具』39〕

  〔現代語訳〕腹の底から欠伸が引き起こされ、その結果長々と欠伸をしたのです。今年の元日は。
 
  〔評釈〕正月にちなんで「元日・元旦」の歌を取り上げることにしたい。ところが、賢治にはいわゆる元日・元旦の短歌作品がない。「歌稿〔B〕」の章にも「明治四十四年一月より」、「大正六年一月」と、ちょっと考えると元日・元旦の作があってもよさそうな部分もあるのだが、この部分にも元日・元旦の作はないのである。「元日・元旦を歌わない賢治」には、注意しておくべきだろう。ちなみに「旦」は、太陽が初めて地上に姿を現すことを意味する文字で、「早朝」の意味となる。抽出歌の啄木作品は、「腹の底から欠伸をしたいような気持ちになり、その結果、長々とした欠伸をした。」という一見何でもないような作品であるが、この「何でもなさ」こそが啄木の発見したことの一つであったのは再三説いているところ。また、ちょっと斜に構えた話者の姿勢は、いわゆる「へなぶり歌」に連なるものであるが、へなぶらずにはいられない作者の哀(かな)しみが漂うことこそが核心だろう。

(盛岡大学長)

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