2009年 1月 4日 (日) 

       

■  〈胡堂の父からの手紙〉197 八重嶋勲 村長退職事件はまだ確定していない

 ■261 巻紙 明治41?年3月26日

宛 東京市麹町区飯田町四丁目三十一日
                松館内発
  岩手縣紫波郡彦部村
前畧今手紙開読セリ、村長退職事件未タ確定□□□□□□□
野上佐藤善次郎ノ如キ裏面拙者ヲ扶クル壱人ナリ、彦部ニ高等併置ノ學校新築ノ計画ト同時ニ至然ニ南北議員ノ紛義(儀)カ生ス、拙者ヲ扶クルモノハ作山康太郎、作山吉太郎、暗ニ野上、大峯又八龍、野上ニ感化サレ居ル様ナリ、勿論橋本松蔵、佐藤市平、野上ノ意ノ如シ、彦部方面ハ小前ニ至ル迄拙者ノ退職ヲ絶対的不可トス、飽迄妨害セントスルモノハ近谷ト小野浅吉ト阿部定吉ノ三人ナリ、併シ我計策アリ、世間我レヲ以テ彦部ノ頭ト認視セリ、況ヤ有力ノ作山暗ニ野上アルモノトセハ近谷、小野ノ如キ何ノ怖ルゝニ足(ラ)ン、我生家ノ為メニ金員ノ費消ナクンバ物ノ数トモ不為ル次第ニ候得共、如何セン金員ノ不足ノ為ノ為種々知リツゝ欠点ノ生スルハ実ニ残念ナリ、以来ハ佐比内村ノ連ト井豊ノ力ヲカルゝノ止ムナキニ至リ候、何分其地ニ於テモノ病体トハ知リナカラ節険(倹)セラレ度候、併セ(シ)テ本年ノ試験ニ落第等ナキ様被致度候、
授業料拾円五十銭ハ会計部ニ直接払込受取モ到達セリ、
大學ニ出校セシトキハ其状況等一報相成度候、
当方モ若者壱人モ相談セサルモ耕次郎ハ普通二十才位ノ人ト同様ニ働キ外、犬吠森岩ノ澤ノ別家、他家離縁ノ娘(廿三才)当分助□居ル為メ好都合ナリ、二、三年后ニハ耕次郎ヘ妻ヲ娶リ家事ヲ助ケシムルノ外ナカルベシ、
花子ノ一件モ可相成表面迄確定シ我等壮健中ニ世嗣初孫見度モノニ候、然ラサレバ同年配者ニ較ベ実ニ羨敷被思候、
花子トハ世間モ稍ヤ夫婦同様ニ見視シ居様ナリ、敢テ隠シ(ス)ノ必要モ無之ベシ、相互ヘ(ヒ)扶ケ合万事相談モシテ可ナラン、定メテ朋友間、在京ノ人々モ女学校ノ方モ然ルナラン、最早秘要モ無之ルベシ、
別紙ハ今般文官試験問題ナリ、郡及び町ヨリモ佐藤定八、下川原菊治、高橋長平ノ三人出席受験セシ由ナリ、下川原ハ稍ヤ合格セシヤノ風説アリ、他ハセロナラント、
明日迄玉子五十個差立候、
轉宅ハ可相成大學ニ近キ処高潔ノ処ヲ撰フベシ、極力自愛セラレヨ、
右報導旁々、余ハ後便ニ残ス、早々
送金弐十五円又容易ナラサルモ今ヨリ心配送金スルコトゝセリ、
     三月廿六日        野村
      野村長一殿
 
  【解説】「前略、今手紙を読んだ。村長退職事件は、まだ確定(していない。)

  屋号野上の佐藤善次郎は、裏面で私を助ける一人である。彦部に尋常高等科併置と小学校新築の計画と同時に行うということで、村の南北議員の紛儀が生じた。

  私を助ける者は作山康太郎、作山吉太郎、暗に屋号野上、屋号大峯また屋号八龍は、屋号野上に感化されているようである。もちろん橋本松蔵、佐藤市平は、屋号野上の意のごとしである。彦部方面は、小前にいたるまで、私の退職を絶対的に不可とする。あくまで妨害しようとするものは、近谷と小野浅吉と阿部定吉の3人である。

  しかしわが計策がある。世間はわれをもって彦部の頭と認めており、いわんや有力の作山、暗に屋号野上があるので、近谷、小野のごときは何の恐れるに足らない。わが家のために金を費消しているということがなければ物の数でもないが、いかんせん、金の不足のため、種々知りながら、欠点の生ずるのは、実に残念である。

  これからは、佐比内村の親戚たち、井豊商店(野村豊治)の力を借りなければならないことにいたっている。長一が、その地で病体ではあるが、節約されたい。しかして、本年の試験に落第等ないようにせよ。

  授業料10円50銭は、帝国大学会計部に直接払い込み、受け取りも到達した。

  大学に出校したときは、その状況等一報せよ。

  当方も若者一人も相談しないが、耕次郎は普通の20歳位の人と同様に働くほか、犬吠森の屋号岩ノ澤ノ別家の、他家に嫁いだ離縁の娘(23歳)が当分、助けにきているため、好都合である。2、3年後には、耕次郎へ妻をめとり家事を助けさせるしかほかないと思っている。

  花子の一件も、なるべく表面まで確定し、われらが壮健中に世嗣ぎの初孫を見たいものである。同年配者が実にうらやましく思われる。

  花子と長一の関係は、世間でもやや夫婦同様に見ているようである。あえて隠す必要もないだろう。お互い助け合い万事相談をしてよいであろう。きっと、朋友間、在京の人々も女学校の方もそうであろう。もはや秘密にしておく必要もないだろう。

  別紙は、今般の文官試験問題である。郡及び町よりも佐藤定八、下川原菊治、高橋長平の3人が受験したとのこと。下川原はやや合格のような風説がある。他はゼロであろうと。

  明日まで鶏卵50個差し立てよう。

  転宅は、なるべく大学に近いところで清潔なところを選ぶこと。極力自愛せよ。

  右報導かたがた。余は後便に残す。早々

  送金25円また容易でないが今から、心配し、送金することとする。」という内容。

  当時、日詰町にあった各町村の組合立紫波尋常高等学校を各地区に造るというものである。彦部村には彦部尋常小学校と星山尋常小学校があり、その内の彦部尋常小学校に高等科を併設しようというもので、議会で論議を交わしているところであろう。

(県歌人クラブ副会長兼事務局長)

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