2009年 1月 17日 (土)

       

■ 〈啄木の短歌、賢治の短歌〉116 望月善次 ヒマラヤ

 【啄木の短歌】

  見よ君を屠(ほふる)日は来ぬヒマラ
  ヤの第一峯(だいいつぽう)に赤き旗
  立つ
  〔「石破集」、『明星』第7号(明治41年7月)〕

  〔現代語訳〕ご覧なさい。あなたを切り裂く日は来たのです。(その印のように)ヒマラヤ山脈の第一の峯(エベレスト)に赤い旗が立つのです。
 
  〔評釈〕「ヒマラヤ」の語は、啄木短歌にはあるが、意外なことに賢治短歌にはない。「意外なことに」と言ったのは、賢治の「西域憧憬」は強く、その作品は、「葱嶺(パミール)先生の散歩」の「西域諸国」等、インド、ツェラ高原、ガンダーラ、トランスヒマラヤと広範な範囲に及ぶからである。抽出歌に即して言うと、「屠」は、「尸(屍)+「者(打つ)」と成る文字で「動物などを切り裂く」意。「ヒマラヤ」は、「雪の家」の意味で「パミール高原に続いて南東に走り、インド・チベット間に東西に連なる世界最高の大山脈。」〔『広辞苑』〕。ヒマラヤ第一の峯と言えば、もちろん「エベレスト」を指す。啄木や賢治も海外には出かけてはいない。したがって、啄木の抽出歌も、「想像」の産物。少なくない非現実的な作品が並ぶ「石破集」の中でも〔『一握の砂』冒頭の「東海の」もその一首〕、はっきりとその非現実性が指摘できる一首だが、「赤き旗」が啄木らしい。
  (盛岡大学長)

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