2009年 1月 24日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉98 和佐羅比山(わさらびやま、814メートル)

     
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  「報告があります」というメッセージが留守録に残されていた。「お付合いしたい女性ができました」。恋愛宣言とはずいぶん丁寧な?とつぶやく私。

  「だってアベさん、和佐羅比山で言ったでしょ。『夫婦っていいもんよ』って!」あっさり切りかえされた。そう言ったかも知れないけれど、ヤボなプレッシャーかけた覚えはない。しかし、まっ、いいか。ここは、男女そろう和佐羅比権現の御利益ってーことで…。
 
  久慈市と野田村の境に位置する「わさらびやま」は、一音ごとに「和・佐・羅・比・山」と漢字をあてる。崖状に大きく肩をいからす東側が「男和佐羅比山」(おわさらびやま)で、ツンと澄ました断崖の西側は「女和佐羅比山」(めわさらびやま)だ。この男山(お)と女山(め)、反対だったこともあるそうだが、どっちにどう入れ替わろうと、和佐羅比峠「野田・塩の道」で仲よく手をつなぐ。

  この山は、「天・地・人」三拍子そろう岩手で唯一の頂だ。すなわち「天」は天測点。「地」は一等三角点本点。信仰を「人」と憶える。

  天測点は、地図上の地点と天文測量における経緯度測量の差異を調べる目的で、戦後に設置された。なんの変哲もないコンクリート製八角柱の観測台だが、天をみすえたスケールは大きい。しかし、一等三角網の精度を向上させた天測点は、全国48カ所の設置にとどまり、岩手ではここ男和佐羅比山がオンリーワンの天測点である。地形に印されなかった天測の証人台であろう。

  「地」の主は、狭いピークの中央に陣取る一等三角点本点。頭面18センチメートル×18センチメートル、長さ82センチメートルの花こう岩の石柱で、わずか地表に20センチメートル頭をだしているにすぎないが、なんと重量は90キロ。気合をいれて蹴飛ばしたところでビクともしない。

  日本全土に一等の本点・補点をあわせて約千点設けた。次いで二等・三等・四等と間隔をせばめ、10万個の三角網で国土を計測したという。

  三角点は明治政府が全国に設置した三角測量の要だった。今ではGPSの出現で役目をほとんど終えたが、よくまぁ、これほどの数を規則正しく埋めたと思う。歴史的偉業に敬服するばかりだ。

  和佐羅比山は信仰あつき「人」の祈りの道でもある。路のいたるところに祠(ほこら)を祀(まつ)る女和佐羅比山は、峠から山頂まで20分だ。車で行く男和佐羅比山には、天測点や三角点、祠があり、電波塔も建っている。

  なにせ、男女おそろいの和佐羅比山だ。良縁が里山の友にも舞い降りたのだろう。私だって素直に思った。「ホント、夫婦っていいものよ」。

(版画家、盛岡市在住)

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