2009年 1月 28日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉109 伊藤幸子 「春にやあるらむ」

 冬ながらそらより花の散
  りくるはくものあなたは
  春にやあるらむ

清原深養父
 
  雲のあなたはもう春!冬とはいえど、こんなにも空から白く輝く花が散りくるからには雲の上は春にちがいないと心を躍らせる歌人がいた。調べがいい、景色がいい。上空に吹きこんだ春の大気を全身で感受した感動の歌。

  古今集・冬の部の作品。ことしは旧正月の元日は1月26日、昔の暦の元日と立春は正確に一致することは少なく、立春が年内になることもさして珍しくない。年内立春の歌として在原元方の「年の内に春は来にけりひととせをこぞとや言はんことしとや言はん」は古今集冒頭に置かれている。

  さて、この「ふかやぶ」という珍らかなお名前。清少納言の父元輔の祖父(生没年不明)といわれる歌人で、古今集に18首、その他の勅撰集にも入っている。そして百人一首には「夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづくに月宿るらむ」がよく知られている。

  過日、わが八幡平市の短歌会で新春短歌会を温泉ホテルで行った。定例歌会のあと会食、私は百人一首を持参してかるた取りを提案した。今は子供たちももう遊んでくれないので、きょうは大満足。読みゆくほどに百首にかかわる百の場面がよみがえる。皆さん実に熱心で、上の句ですぐ反応する人、はじめからねらいを定めている人など白熱して時を忘れた。

  私のいちばん好きな歌は「難波潟みじかき蘆(あし)のふしの間も逢はでこの世を過ぐしてよとや」三十六歌仙のひとり伊勢の作。潟、蘆、節など巧みに縁語を畳みかけて、切々と女心を伝える。「逢はでこの世を」の気迫に打たれ、いつもこの札をそっと自分の膝元にひきよせる。

  気がつけば本日のイベントも終了時間が近くなった。ホテル12階から望む岩手山は峨峨たる鬼ケ城を従えて、まっ白に輝いている。時折雪が風に舞い立ち、雲をひきつれて全山墨絵のようにけぶる。刻々と変化する山容は何時間でも見あきぬ光景だ。降りしきり、冴え返り、ここ八幡平の雲のあなたに春の大気がめぐりくるのは、まだまだ先になりそうだ。

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