2009年 2月 1日 (日)

       

■ 〈宮沢賢治の盛岡高農時代〉9 小川達雄 入学宣誓式9

     六、学科試験

  さて翌日の三月二十八日からは、いよいよ学科試験である。

  本館二階講堂には、昨日の体格検査の時とは違って、いちめんに長机が並べられていた。通常であれば、三人または四人用の長机(前席の背もたれの後ろには、後席用の机の板がついている)に、今日は左右に離れて、二人ずつが座る。

  講堂の奥正面は、緞帳(ドンチョウ)が両脇に下がった演壇で、左側には押上げ式のイギリス窓が並ぶ。現在、床には赤い絨毯が敷きつめられているが、当時は床板のままで、その上を土足で歩いていた。

  受験生は試験用紙が配られる間、それから「始メ」と言われる前が、ひどく落ちつかない時間であるが、賢治もそんな時、やはり重苦しさを味わっていたに違いない。しかし最初の学科は午前八時から動物及び植物の二時間で、それは賢治の最も得意な学科であった。

  去年一高英文に合格した阿部孝は、賢治の学科の傾向について、こう記している。

  「中学時代における賢治の一番得意な学
  科は博物であった。一年が鉱物、二年が
  植物、三年が生理、四年が動物になって
  いたが、その中でも一年の時の鉱物と二
  年の時の植物とが、とくに彼にはお手の
  もので、彼にとってそれらは趣味と学習
  とのみごとな結合だった。」(『随筆ば
  ら色のばら』要約)

  賢治にとって、試験がその得意科目から始まったのは、運がよかったといえる。

  ここでは、大正四年のその時の問題を、最初の科目に限って、『新校本全集』から次にあげておくことにしたい。

    ○動物
  1八射珊瑚ト六射珊瑚トノ体躯ノ構造ヲ
   比較説明シ且之ニ属スル動物ヲ各二ツ
   ヅヽ列記スヘシ
  2節足動物ニ属スル各綱ヲ代表セル動物
   ノ名称ヲ各一ツヅヽヲ挙ゲ且其ノ動物
   ノ輪郭ヲ図示スヘシ
  3左記ノ動物ハ如何ニシテ区別スルヤ
   一かれひトひらめ 二ゐもりトやもり

    ○植物
  1苹果、桃、甘薯及馬鈴薯ノ通常食物ニ
   供スル部分ハ植物形態学上如何ナルモ
   ノナリヤ
  2植物体ニ対シテ発散作用ノ必要ナル理
   由ヲ説明セヨ
  3葫蘆植物ノ特徴ヲ説明シ此科ニ属スル
   食用植物五種ヲ挙ゲヨ

  これは古い文体で、おまけに「八射珊瑚」とか「葫蘆植物」とか、わからない!という気持ちが先に立ってしまうが、しかし賢治使用の教科書には、それぞれ「紅珊瑚(ベニサンゴ)の類は、八個の触手を有す」「葫蘆(コロ)科の植物は総べて蔓草にして巻髭により他物に巻き付き〜きうり・たうなす・すゐくわ等これに属す」とあり、その他、いずれも教科書には載っていた。

  調べてみて、わたしはなにか、大正時代に頭を下げる気持ちになったのである。

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