2009年 2月 3日 (火)

       

■ 〈啄木の短歌、賢治の短歌〉123 望月善次 川と石

 【啄木の短歌】

  石よ石見ればやかなしひた〓〓の芦辺
  の波にひる時もなし

  〔『歌稿ノート 暇ナ時』明治四十一年七月十六日夜〕

  〔現代語訳〕石よ石よ、(お前を)見ると悲しいのです。(なぜなら)ひたひたと寄せて来る芦の水辺の波に乾く時もないのですから。
 
  【賢治の短歌】

  対岸に
  人、石をつむ
  人、石を
  積めどさびしき
  水銀の川

   〔「歌稿〔B〕」153〕

  〔現代語訳〕対岸に人が石を積んでいます。人が石を積んでいるだけなのですのに、寂しくてたまらないこの水銀色の川なのです。
 
  〔評釈〕「川と石」とが組み合わされた作品二つを抽出した。啄木歌は、『歌稿ノート暇ナ時』からのもの。前後に置かれた「岸の木の根に口つけて流れゆく水の如くに去れるのみなり」、「胸の中俄に起る早鐘の千を数へて昏睡に入る」という二首を考慮に入れて読むと、抽出歌の「へなぶり」調も明らかになる。既に指摘していることだが、この軽さの背後にある悲しみと、創作歌の猛烈な速度のことは忘れてはなるまい。賢治作品は「大正三年四月」中のもの。伝記的事実からすれば、中学校を卒業したが、上級学校の夢を絶たれ、健康も害して鼻の手術のため、岩手病院へ入院した頃を背景にした作品群。もちろん、創作時期をこの時期に対応させることには、いくつかの留保が必至で、慎重な検討が必要となろう。それにしても、第二句から第四句にかけての「人、石をつむ/人、石を/積めどさびしき」は、賢治の短歌定型操作力のレベルの高さを語って余すところがない。

(盛岡大学長)

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