2009年 2月 4日 (水)

       

■ 〈都市の鼓動〜リレーコラム〉27 山添勝 盛岡の街造りデザイン報告〜その1、盛岡駅前通り街路修景について

     
   
     
  これまで盛岡の街造りデザインについてはかかわる機会が多かった。東北新幹線盛岡開通直前の盛岡駅前通り修景に始まり、駅前広場修景、大通りのアーケードを含む街路修景、そして肴町アーケード街リニューアル等、である。

  街路や広場のデザインについて、これまで公に説明する機会がほとんどなかった。このコラム欄はその場でもあると考え、遅ればせながらの報告をさせて頂きたい。

  まずは駅前通りから。

  この事業は駅前商店街の共同出資事業であった。市、商店街の理事の方々、そして私を含む各種専門家で構成される委員会が組織され、私は計画全体の設計責任者であった。

  盛岡は「杜の都」とうたわれ、緑豊かな印象の街なはずであったが、ビルの乱立でその印象が薄れつつあることを私は懸念し、緑のネットワークの構築を、街路を緑化することによって進めるべきと考えていた。

  駅前広場がその起点となり、駅前通りは始まりであるべき、というコンセプトを皆に理解して頂き、歩車道間に幅2メートルの植栽帯と街路樹のゾーンを設けることがまず承認された。幅の広いゾーンは街路樹、低植栽枡、街路灯等のストリートファニチャーを余裕をもって配することが出来る。残りの歩道幅はなお5.5メートルの幅を持ち、駅前歩道にふさわしい歩行空間を確保できる。そこまでは順調に決まった。

  さて、盛岡の玄関口にふさわしい街路デザインはどうあるべきか、についてはおおいに悩んだ。まずは路面パターンと街路灯、ガードレール等のデザイン、そしてストリートファニチャーなど、どうしたら盛岡を表現できるのか…。

  悩んでいる最中に通りに面したお土産店のご主人から水沢の南部鉄器の鋳造元を紹介したいと申し入れされた。

  鋳造会社の社長が鉄器デザイナーの広瀬氏を伴って訪ねてきた。私は当初、鉄鋳物に期待をしていなかった。さびが心配だったのである。ところが話を聞くと鋳物はさびが出にくいうえに塗装技術の進歩で雨風にさらされても長期間耐えうることが分かってきた。

  それは私の悩みが晴れていく過程と重なった。もし、鉄鋳物が使えるなら城下町盛岡にふさわしい重厚で、品位ある街路デザインが期待できる。南部鉄器の街を象徴することも可能となる。ならば鋳物で製作出来る物はすべて鋳物で実現する。街路灯、ガードチェーン、車止め、ごみ箱、さらには路面に埋める絵タイル等。

  今度は訪ねてきた社長が驚いた。いままで造ったことがない物ばかりである。「街路灯なんて鋳物で作れるだろうか」と心配気である。「電柱にくくりつけられた笠付の裸電球だって街路灯なんだから鋳物で出来ないはずがないでしょう」と私。そばで聞いてたデザイナーの広瀬氏の顔が紅潮している。

  広瀬氏とその場でそれぞれのデザインスケッチのやりとりが始まった。いけそうだ!かれらは興奮と心配のいりまじった表情で帰っていった。これが南部鉄器で特徴づけられた駅前通りデザインの始まりである。紆余(うよ)曲折しながらそれらは実現した。

  街路樹の選定はもめにもめた。プロジェクトチームの植栽アドバイザーの橋本氏と私はケヤキを押した。駅前通りはケヤキの並木通りとなれる余裕をもった唯一の中心街路であることがその一番の理由であった。商店街振興組合の三浦理事長はねむの木を押して譲らない。ナナカマドも候補にあがった。

  ねむの木は曲がり癖があるので適さない、と橋本氏。

  あるとき、三浦理事長に橋本氏と帯同して「自分の道場にきてほしい」といわれ出向いた。理事長は剣道の達人で開運橋際に立派な道場をもっていた。訪ねていくと彼は居合いの稽古中で、白刃を裂ぱくの気合とともにギラリギラリ。やがてそれを鞘(さや)に収めると、にこやかな表情で我々の前に正座し、おもむろにいわく「さて、街路樹の件ですが…」

  ふたりとも恐れ入ってしまった。橋本氏は「ねむの木の曲がり癖がなんとも良い」などとおっしゃる始末となった。

  そんなこともあり、樹種の選定は難航し、業をにやした市は小岩井農場の植物学者、野田坂氏を登場させ、彼の推薦でイタヤカエデをメインの街路樹とすることが決定した。つくづく盛岡人の緑に対するこだわりのすごさを感じさせられたものである。

  路面のパターンは南部古代型染のパターンのひとつを参考にした。多少カラフルなゆえんはこの事業が商店街の共同出資事業のため、なによりも商店街にふさわしいにぎわいの演出が必要と考えたからである。

  完成1年後、リフレッシュされた盛岡駅前広場とともに新幹線の開通を華やかに迎えることになる。

(建築家)

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