2009年 2月 22日 (日)

       

■ 〈胡堂の父からの手紙〉204 八重嶋勲 たばこをやめたと聞いて喜んでいる

 ■271半紙 明治41年5月2日付

宛 東京市麹町区飯田町四丁目三十一、
                日松館
発 岩手縣紫波郡彦部村
前畧祖母義(儀)去ル廿五日午前六時死去、同仝埋葬、廿九日法事相営ミ候、埋葬ノトキ僧呂(侶)四人(正養寺、長徳寺、高金寺、鳳仙寺)会葬者七十五人、地方ノ盛葬ナリ、法事客膳三十人、僧四人、無事相済候、翌日畑中ハ着シ伯母かねノ愁傷尚ホ止マス、尤モ臨終ニ二、三日前迄、カネ、畑中ノアッパヲ呼ヒタルコト実ニ気ノ毒ニ被思候、乍併親族顔揃ヘシテノ臨終ハ誰レシモ到底不出来事故不止得次第ニ候、
畑中ハ出發ノ際犬吠森彦吉ノ連中ノ為メ時間ノ変更アリタル為メ面會セスシテ東京ヲ出發セシハ最モ遺憾ナリト話シ居候、
出發ノ際宿屋ニ長一ニ宛テ金壱円預リ置キ受領証ヲ徴シ箋中手紙ヲ番頭ニ差立方ヲ托シタル由ナリ、定メテ受領セシナラン、
同人等ノ話ニ健(堅)固体ニ服(復)シ、殊ニ肥満セルハ昨年夏休ト比較不相成、且ツ食事通例以上ナリト聞キ皆々迄大ニ喜ヒ居リ候、
目下大ニ困リタルハ家内ニ人少キ為メ労働者ノナキ事ナリ、耕次郎ハ日詰町ニ蚕業講習ニ出テ、朝七時ヨリ午後四時迄不在、犬吠森ヨリ助合アリタル女(弐十三歳)五月一日彦部寺沢ニ縁付、外ニ若者モナキ為メ壱人モ農事ニ働クモノナキ故如何共為シ不能候、
今回祖母ノ死亡ニ就テ費用ハ親類手傳ノ外弐十二円計不足生ス(シ)タルノミ、近々玉子(卵)モ送ルコトニ可致候、
未タ授業料モ送納不致居候、定メテ学校ニ出ルニ不都合ナラン、
昨年大学生評論ニアリタル如ク病気ノ為メ野村ハ不活發ニナリタリナトゝ評アリ、此場合元気回服(復)シテ敏活ニスル方又身体ノ為メニモ可然、應分ノ運動徐々トセラレ度候、
手元ニ金員モ無クナリタルナラン、此困苦ヲ推察セラレ度、煙草ヲ廢シタル由畑中ヨリ聞キ傳ヘ大ニ慶ヒ居候、右用事迄、早々
  五月二日     野村(長四郎)
     長一殿
 
  【解説】「前略、祖母儀はさる25日午前6時死去、同日埋葬。29日法事を営んだ。埋葬のときは僧侶4人(正養寺、長徳寺、高金寺、鳳仙寺)会葬者75人、地方においては盛葬である。法事客膳30人、僧4人で無事相済ませた。翌日、屋号畑中(作山吉太郎・カ子夫妻。カ子は父長四郎の妹)が東京から帰着。伯母かねの悲しみはなおやまない。もっとも臨終の2、3日前まで、カネ、畑中のアッパ(お母さん)としきりに呼んでいたのは実に気の毒に思われた。しかしながら親族が皆顔ぞろえしての臨終は誰れしも到底できないことでやむを得ないことである。

  屋号畑中は東京出発の際、犬吠森の屋号彦吉の連中のため時間の変更があったので、長一に面会しないで東京を出発してきたのは最も遺憾であったと話していた。

  出発の際、宿屋に、長一に宛てて金1円を預け置き受領証をもらい封筒の手紙を番頭に差し立てるよう託してきたとのこと、きっと受領したことであろう。

  同人らの話では、堅固な体に復し、ことに肥満したことは、昨年の夏休みとは比較にならないほどで、かつ食事は並み以上であると聞き皆々大いに喜んでいる。

  目下大いに困っているのは、家内に人が少いため働き手がないことである。耕次郎は日詰町に蚕業講習に出て、朝7時から午後4時まで不在。犬吠森から手伝ってもらっていた女(23歳)は、5月1日、彦部の寺沢に縁付き、外に若者もないため一人も農事を働くものがなく、何ともなすことができない。

  今回祖母の死亡について費用は、親類からの香典や手伝をいただいたが、22円ばかり不足を生じた。近々卵も送ることにしよう。

  いまだ授業料も送っていないので、きっと学校に出るのに不都合であろう。

  昨年の大学生評論あったように、病気のため野村は不活発になったなどと評があり、この場合元気回復して敏活にする方がよく、また身体のためにもしかるべきであろう。応分の運動を徐々にされたい。

  手元に金がなくなったであろうが、この困苦を推察してもらいたい。煙草を止めたことを、屋号畑中から聞いて大いに喜んでいる。右用事まで、早々」という内容。

  長一が、旧制一高から帝国大学の始めごろに罹(かか)った肺疾患が、医薬や栄養をとり、小田原在早川村の清光館に転地療養をし、父が送る、卵、焼き鳥、松の実、マツタケ、リンゴなどで精を付けて、ついに難病を克服したのである。

  その結果、肥満し、まるで相撲取りのようになったという。父や家族の喜びはいかばかりであったか。

(県歌人クラブ副会長兼事務局長)

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