2009年 5月 2日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉10 望月善次 はらはらと友禅染に

 桜花、しっとりと雨に濡れしほる、お
  染の雨に濡れしにぞ似て
 
  〔現代語訳〕桜の花は、雨に濡れてしおれています。(「お染・久松」のお染が雨に濡れたのに似て。)

  〔評釈〕「春日哀愁篇」十七首〔『アザリア』第1号〕の九首目。桜の花が雨に濡れている様子を、「お染・久松」の「お染」に結びつけているのは、こうした面に明るい嘉内らしい。〔一七一〇年に大坂で起こった、油屋の娘お染と丁稚の久松との丁稚事件は、歌舞伎や浄瑠璃にも取り上げられていて良く知られているだろうから評者からの贅(せい)言は不要だろう。〕「しっとり」については、まず、「しっとり」の「っ」が小さく書かれていて、賢治の作品等の中にもしばしば表れるこうした表記が、賢治だけのものではないことに注目した。ところで、「しっとり」は意味的には、「水分が適度に行き渡っている様子。」〔『くらしのことば擬音語擬態語辞典』〕を示すオノマトペで、プラス的評価で使用される語彙(ごい)。これに対し、「しほれ〔萎れ(?)〕」「生気を失ったしばむ」や「古くなってくたくたになる」〔共に『広辞苑』〕などのマイナス的な意を表す語彙だから両者の整合性という問題は残るであろう。

  (盛岡大学長)

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