2009年 5月 10日 (日)

       

■ 〈胡堂の父からの手紙〉215 八重嶋勲 その後の消息はいかがであるか

 ■283巻紙 明治41年10月6日付

宛 東京市麹町区飯田町四丁目三十一、
               日松館内
発 岩手縣紫波郡彦部村
前畧其後之消束(息)如何ナルヤ、目下之健康承知致度候、通学致居候ハゝ其状況詳細承知致度候、
当地方ニモ益々肺病流行スル様兆候アリ、実ニ難敷コトニ候、
日詰署詰(三十三、四年頃長岡彦部駐在)巡査伊藤傳吾ノ如キ角力取リノ如キ體格弐十貫目以上ノ人八月頃ヨリ肺症ニ罹リ目下起居モ自由ナラスト、日詰ノ鎌田武蔵呉服屋先月頃ヨリ病床ニ居ル由ナリ、日詰町木村政太郎氏ノ長男昨年頃醫科大学卒業セシ人、目下九州邊ニ病院長ナルヨシ、大病ノ電報ニ接一昨四日父木村出立セシ由ナリ、同親戚ノ話ニ依レバ病名肺ナルモノゝ由、多分死亡セシナラント一家族落膽犯スル計リ実ニ惨歎タルモノニ候、
(此手紙書スル場合廣島病院ニ於テ死亡セシヨシ傳聞セリ、病腸チフスナリト)彼レヲ聞之レヲ見ルトキハ體格ノ弱キモノ到底学業果シ不能、之レヲ遂ケン(ト)セハ端(短)命スルノ慮リ(レ)アリ、學資欠乏セリ、今断念シテ廃学シ應分ノ職業ニ従事スル方如何ナルヤ、定メテ当期ノ卒業試験モ受ケ間敷、一ヶ年延フルトキ四、五百円ノ違アリ、加之健康不良ナルトキハ強メ勉学スルハ不可ナラン、且ツ勤學スルノ勇気失セシナラント推察致居候、
殊ニ老生年追フテ耄碌セシ様心地シ貧ス
ル共親子寝食共ニ致度モノニ候
岩ノ澤ノ祖母(六十七才)去ル二日突然頭痛スルト云フ内ノ出縁ニ尻掛ケ居タル侭二時間計リニシテ死亡セリト、醫師ノ検按(案)書ニ依レバ脳溢血症ナリト
目下耕次郎モ講習所通学ヲ止メ(三十一人ノ内十八、九人未タ通学)農事ニ従事為致置候為メ少シク農事ノ都合モ宜敷相成候、稲作モ相應ナリ、弐才馬匹ハ三十
八円廿銭ニ馬町檢場ニテ売買セリ
乍操言目下ノ健康ノ状況及通學ノ状況至急回報可相成候、右用事迄、早々
   十月六日       野 村
     野村長一殿
 
  【解説】「前略、その後の消息はいかがであるか。目下の健康を承知したいものである。通学しているのであればその状況を詳細に承知したい。

  当地方にもますます肺病が流行する兆候にあり、実に難しいことである。

  日詰署詰め(33、4年頃長岡彦部駐在)巡査伊藤傳吾のような角力取りの如き体格20貫目(75`)以上の人が、8月頃から肺症にかかり、目下起居も不自由であるとのこと。日詰の鎌田武蔵呉服屋も先月頃から病床にいるとのことである。日詰町木村政太郎氏の長男が昨年頃医科大学を卒業して、目下九州辺で病院長であるとのことであるが、大病の電報があり、一昨4日父木村政太郎が出立したということである。同親戚の話によれば病名は肺症であるとのこと。多分死亡しただろうと一家族落胆するばかりで、実に惨歎たるものである。

  (この手紙を書いているとき広島病院で死亡したということを伝聞した。病腸チフスであったと)

  あれを聞き、これを見るときは体格の弱い者は到底学業を果すことができないようである。これを遂げようとすれば短命となるおそれがある。学資が欠乏した今断念して廃学し応分の職業に就く方はどうか。きっと当期の試験も受けず、1か年延びるとすれば、4、500円の違いがあり、これに加えて健康不良であるときは、つとめて勉学するのはできないであろう。かつ長一は勤学する勇気が失せたのではないかと推察している。

  殊に老生、年追って耄碌(もうろく)したような心地している。貧しくても親子寝食を共にしたいものである。

  長一の妹たみ江の嫁ぎ先、屋号岩ノ沢の祖母(67歳)は、さる2日突然頭痛がするといって家の出縁に尻掛け居たまま2時間ばかりして死亡したと。医師の検案書に依れば脳溢血症であるという。

  目下耕次郎も養蚕講習所の通学を止め(31人の内18、9人いまだ通学)農事に従事させているため少しは農事の都合がよくなった。稲作もほど良い。2歳馬は38円20銭に盛岡の馬町馬檢場で売買した。

  繰り言ながら目下の健康の状態と通学の状況を至急回報するようにせよ。右用事まで、早々」という内容。

  肺結核が蔓延している世の中の状況である。9月15日付の父の手紙の

  一、病気再発の恐れがないか。
  一、身体と気分の具合に異状がないか。
  一、日松館に対し、未払いのためのど
   のような申訳をしているのか。
  一、目下学校へ通学しているのか。
  一、試験を受ける意志があるのか。
  一、通学してないのであれば、毎日ど
   のような過ごし方をしているのか。

  に、20日も経っているのに、長一は全く答えていないのである。肺疾患が快方に向かっているとはいえ、父母にとってその予後を心配しているというのにである。また、大学通学、試験の受験の様子等など、どのような暮らし方をしているのかと、遠隔地であるが故に、父は気が気でないのである。
(県歌人クラブ副会長兼事務局長)

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