2009年 5月 14日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉14 望月善次 桜咲きて心あがりぬ

 桜咲きて心あがりぬ、浅草の十二階見
  ゆ、遠くかすみて
 
  〔現代語訳〕桜が咲いて、心が昂ぶりました。ああ、ここからは、浅草の十二階(凌雲閣)も、遠く霞んで見えるのです。

  〔評釈〕「春日哀愁篇」十七首〔『アザリア』第1号〕の十四首目。以下の四首には、「四首 旅 日記より」の注記があり〔「旅」と「日記」の間に置かれている空白は原文のもの。〕、作品の実際も盛岡以外を舞台としている。抽出歌は、作品中にも示されているように、浅草の「十二階」も見ることのできる場所を舞台としている。通称「十二階」は、正式名は「凌雲閣」。パリのエッフェル塔を模したと言われるこの建物は、浅草を代表する建物で、明治二十三年に建てられたが、関東大震災(大正十二年九月一日)で崩壊した。『一握の砂』にも「浅草の凌雲閣のいただきに/腕組みし日の/長き日記かな」〔80「我を愛する歌」〕があるから、啄木ファンの嘉内には、そうした感慨もあったのだろうか。桜による気持ちの昂ぶりは、(その否定的物言いも含めて)日本人の多くに共通するもので、作品の屹立(きつりつ)には、工夫が必要な難素材。それだけに嘉内におけるその覚悟は、やはり問題にしたくなる。

(盛岡大学長)

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