2009年 5月 19日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉16 望月善次 鴎らはこの大海を

 鴎らはこの大海をかけりとぶ、いつし
  か一羽、空に消えたり
 
  〔現代語訳〕鴎達は、この大きな海を飛び廻っています。いつの間にやら、そのうちの一羽が空に消えたのです。

  〔評釈〕「春日哀愁篇」十七首〔『アザリア』第1号〕の十六首目。二首前に置かれた「四首旅 日記より」の注記や前に置かれた「海鹿島(アシカジマ)、銚子岬に行くとして菜の花に降る銀雨を過ぐ」からすれば、千葉辺りの海辺などの嘱目の風景だとも読める作品。「かけり(翔り)」は、「空を飛ぶ」の意。該当する漢字の「翔」も「羊(転音によって、「へめぐる」の意が生ずるという)+羽」によって「ぐるぐると飛びまわる」などの意を表す文字。大きな海を前にした話者は、カモメ(鴎)の群れに着目する。海という背景の中、見るともなく見ていると、そのうちの一羽が、空の中へ消えて行ったというもの。「海vs鴎vs空」の中に作者の旅愁・春愁の思いが漂う。ちなみに、作者の嘉内は、海のない山梨県の出身。同じく(県の単位ではないが)海がなかった花巻出身の賢治の「まぼろしとうつとわかずなみがしら/きほひ寄せ来るわだつみを見き」〔「歌稿〔B〕」10〕も彷彿させる。

(盛岡大学長)

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