2009年 5月 27日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉126 伊藤幸子 「新人です」

 新面目 日々あるべしと
  素心もて 流れに立つを
  新人といふ
橋本喜典
 
  5月23日、日本現代詩歌文学館にて、第24回詩歌文学館賞贈賞式が行われた。詩部門は、長田弘氏、短歌、橋本喜典氏、俳句は友岡子郷氏の受賞、岡田日郎氏の記念講演もあった。

  私は、橋本氏の第八歌集「悲母像」を求め、帰宅するなり読み始めた。おもしろくて、おかしくて。会場での偉い先生方の選評は深く、戦中戦後のイデオロギーや洞察力にふれて、賞の重みを認識させられたが、私は私の感覚で、なんておもしろい本だろう、と喜んだ。

  昭和3年生まれの作者の、昨年11月11日、誕生日に刊行の「非母像」450首。私はまず、その中の長歌一篇「新人」に心を奪われた。

  主人公は歌会に行こうと電車に乗る。隣に座った行商の老女と歌稿を読む作者との場面。

  「七十歳(ななそぢ)の前後の年齢か 健やかに皺もなき顔 何となく備はる品を感じつつ われも笑めれば 老女言ふ。短歌と俳句は どう違ふんでしようね 不意打をくらひしわれの、なんとせう、なんとせう」そして「あなたの歌はどれですか これです と一首を指せば 引き寄せて読みゐし老女 おもむろに面(おもて)上ぐるや 歌は説明ではないものね 行商の老女に言はれ ひたすらに頷きをれば あなたは新人ですね ああなんてせう。」

  「歌歴二十年 たちまちに深傷(ふかで)を負へど あら不思議心はなんと 爽やかに笑みさへ湧きて おのづから出でたることば はい、新人です/一月五日歌の仲間の懇親の 集ひに聞けるこの年の初のスピーチ 大き拍手起れる中に われもまた手を打ちながら 新人です、新人ですと呟きてゐつ。」

  そして反歌が掲出の歌。一字違えば「真面目」大まじめだけれど、一字にこめた作者の真意や面目躍如。

  「この姿なにゆゑなると悲母像は戦(いくさ)に死にし若者を抱く」山梨県小淵沢のフィリア美術館を、私もいつか訪ねてみよう。一書を完読し、行きたい、見たい、知りたい願望が次々とわいてくる。「少(わか)き日の疑問の奥に在りしもの解らねばいまだ老いに到らず」との大人(うし)の境地を仰ぎ見て、老いに到らぬ未知への憧れを強めている。

本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします