2009年 5月 31日 (日)

       

■ 〈風のささやき〉4 重石晃子 絵の持つ力

     
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  うまい絵を描く人はたくさんいて、わたしはただ感心するばかりだが、でも心をとらえる絵は残念ながら本当に少ない。画廊を出るころには裏切られたような気分になる。絵の持つ力って何だろうか、わたしはいつも考える。

  現代は抽象・具象「何でもあり」の時代である。展示場にたくさんのゴミが落ちているなあと思ってよく見るとそれは作品であったりする。新人類の若者の仕業であろうが、過去に営々と積み上げた表現技術はすべて否定しなければ、新しい表現はできないというのが骨子にある。

  見る人もまたそれが面白く、難しく書かれたタイトルも分かった顔で読んでいる。たかが絵の表現技法だが、新しい時代のテクニックである。もはや上手さの形が変化している。でも普遍的に変わらない人の心だってあるのでないか。不安に駆られながら考える。

  川崎にあったアトリエをたたんだとき、キャンバスの古い絵は、持ち上げるとばらばらと絵の具が落ち、作品としてほとんど通用しない状態であった。捨てる前に広げて眺めたが、どの絵も真剣によく勉強している痕跡があった。これだけ造形の勉強したのなら捨てても満足だと思い、百号の大作20枚はごみとなった。

  いずれわたしがこの世から消えた時、作品の山もまたごみと化す運命にある。テクニックが良くても悪くてもまた新しくても古くても関係はない。学んだものが形として残るわけではなく、学生時代のノートだって、何処かに消えてしまったではないか。

  あまり良くない傾向だが、マイナス思考で自分を納得させ盛岡に引越しした。かつて作品の置き場がなく、盛岡の弟の会社の壁面に一枚の絵をかざってもらったが、もう30年も昔のことである。

  その絵を毎日見ていた職員の一人が定年退職後、念願の絵を描き始めたのだ。「いつかこんな絵を描きたい」と思い続けて眺めていたという。もともと感性を持った人に違いないが、わたしの未熟な作品が絵を描く動機になったと聞いてとても感激した。画家として最もうれしいことである。

  絵は時に人の心をつかみ人生を変えることがあるのだと。

  (画家)

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