2009年 6月 4日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉22 望月善次 にぶぎんの空の

 にぶぎんの空のまんなかに猫が居る、
  悲しき猫よ眼をつむりたる
 
  〔現代語訳〕鈍い銀色の空の真ん中に猫がいます。ああ、悲しい猫は、目を瞑(つぶ)っているのです。

  〔評釈〕「六月草原篇」十首〔『アザリア会雑誌』第一号(盛岡高等農林アザリア会、大正六年七月一日)〕の五首目。「にぶぎん(鈍銀)の空」は、前に置かれた作品との連続性を重んじれば、「三本のどろの木」の向こうにあることになるわけだが、その空の真ん中に「猫」がいるという、嘉内としては数の多くない幻想的な作品。「悲しき猫」の「悲しき」は、もちろん、話者が持つ感情。しかし、この作品の具体的表現においては、「猫」に対する客観的な描写はないから、話者が抱いた「悲しき猫」という断定は、読者には、その蓋然性(がいぜんせい)が判断できない構造になっている。読者は、話者のこうした断定を踏まえて、その前提に立って作品の出来を評価することになる。こうした抽出歌に対する評者の評価は次の二つとなる。その一つは、嘉内が幻想的作品をなしたという事実への評価であり、もう一つは、この幻想的作品の出来映え、すなわち、まとめ方である。いずれについても、評価できるものだとした。
  (盛岡大学長)

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