2009年 6月 9日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉24 望月善次 にりんそう、谷間を

 にりんさう、谷間をすべて埋めたり、
  まったく山を行く人もなし
 
  〔現代語訳〕ニリンソウ(二輪草)が、谷間を全て埋めています。ああ、この山を行く人は誰一人としていないのです。

  〔評釈〕「六月草原篇」十首〔『アザリア会雑誌』第一号(盛岡高等農林アザリア会、大正六年七月一日)〕の七首目。「ニリンソウ」は、キンポウゲ科の多年草。2本の長花柄を出すところからこの名がある。花期は、一般的説明としては、4〜5月ころ〔『マイペディア』〕。この花期を考慮すると、嘱目の風景だと受け取るのが一般的な〈読み〉であろうし、嘉内の作品の多くは実体験に基づいたものが多い。ところで、「花と山(道)を行った人」と言えば、あの釈迢空(折口信夫)の名歌「葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり」を連想される各位もあろう。迢空の作歌は、嘉内作歌から三年後の大正十年、歌集『海やまのあひだ』に収められるのは大正十三年となる。ある意味では、近い素材である「花と山(道)を行った人」を素材としながら、迢空作品が歴史に残る名歌となり、嘉内作品がもう一歩であることの考察は、嘉内短歌を解明する一助ともなろう。

  (盛岡大学長)

本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします