2009年 6月 13日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉26 望月善次 農場の農夫はみんな

 農場の農夫はみんな昼深き睡に陥ちて
  湯ひとりたぎる
 
  〔現代語訳〕農場の農夫は、皆、昼の深い眠りに落ちていて、湯だけが滾(たぎ)っています。

  〔評釈〕「六月草原篇」十首〔『アザリア会雑誌』第一号(盛岡高等農林アザリア会、大正六年七月一日)〕の九首目。「睡」は、「頭や瞼(まぶた)が垂れて居眠りをする」ことが原義。ちなみに「眠」は、「目」+「民(落ちる)」で「瞼が落ちて眠くなること」。「睡眠」は、「睡」・「眠」と同意味の漢字を重ねて作る典型的な造語法の一つ。「陥」は、阜偏が「高地」を、旁が「落ち込む」の意味を表し、「高地が崩れる」ことが原義。〔ちなみに、「落」は、草冠(草)と「洛(下りてくる)」から成り、「草木の葉が落ちる」が原義で、「陥落」が同意味の漢字を重ねて造語するのは、「睡眠」の場合に同じ。〕農場の農夫が深い眠りに落ちていて、湯だけが滾っているというのは、ある意味では、ありふれた光景。湯の音によって静寂が引き立つことから言えば、あの芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」〔『春の日』〕にも通じよう。そこから、一歩を踏み出して、どう新境地を拓くかは嘉内作品全般に通じる課題でもある。
  (盛岡大学長)


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