2009年 6月 14日 (日)

       

■ 〈胡堂の父からの手紙〉220 八重嶋勲 どうであるか、1学年を2年にわたってやるのか

 ■289はがき 明治41年11月24日付

宛 東京市麹町区飯田町四丁目三十一、
               日松館内
発 岩手縣紫波郡彦部村
前畧其後再三文通スルト雖モ何等回信ナキノミナラス、至急ヲ要スル事柄モ回答ナキハ如何次第ナルヤ、病気再發ニテモナキカ、至急健康情態報導致ヘク候、若シ返信ナキニ於テ宿元又ハ学校ヘ直接取合スルノ外ナカルベシト考居候、夫共学校ヘ欠席致居ル事ナレバ到底学業ヲ廃し帰縣可致候、此状着次第目下ノ状経ト用件送ルベシ、
 
  【解説】「前略、その後再三手紙をやっても何ら回信ないのみならず、至急を要する事でも回答がないのはどういうことであるか。病気が再発したのではないのか。至急健康状態を知らせよ。もし返信ない場合は宿元または学校へ直接問い合わせてみるしか方法がないと考えている。それとも学校を欠席しているのであれば、学業を廃して帰県せよ。このはがきが着き次第、目下の情況と岩亀郡長の答礼状の件を送るべし」という内容。
  さすがの父もこのたびの通信は語気が荒々しい。

  ■290巻紙 明治41年11月28日付

宛 東京市麹町区飯田町四丁目三十一、
               日松館内
発 岩手縣紫波郡彦部村
前畧本日手紙ヲ受ケ安心セリ、夏頃話合アリタル筈、此十二月試験ヲ受ケ、六月受ケザル知ヲ補フコト出来ル哉云々、定メテ其邊準備アルコトナラント推察致居候、如何ナルヤ全々大学一学年ヲ二年(ニ)渡リ修学スルノ豫定ナルヤ、
豫而佐比内村ノ叔父様ノ世話ニテ夏頃六十円借リ入タルモノ督促セラレ、今日迄米賣却シテ返済致候、其他種々方面よリ督促セラレ出來ル限返済スル都合ナリ、
目下彦部學校ハ昨日素建相成、元ノ校舎十間計北方ヘ引轉シ前ニ東向五間十間ノ平屋二間ノ廊家(下)付、來ル十二月半頃迄ニ出來ノ見込ミニ候、村治上モ北校ノ為メ彦部全体村長ノ英断ヲ称シ、殊ニ野上其他彦部議員等有志迄村長派ト云フ状況ナリ、当春ニ比シ一変セシ心地セリ、日詰町ノ内城ノ二男ナルカ豫テ肺患ニ罹リ居タル人去廿日頃死亡セリ、
明二十九日佐藤善太郎君ハ一年志願兵トシテ弘前ヘ出發ナリ、
彦部ニテハ後庵ノ掛物即チ玉日ノ宮ノ画盗難ニカゝリ家宅索探ノ結果HノS左ヱ門ナルコト発覺シ日詰警察署ニテ取調中逃走、外数件アリ、毎日警察ヨリ三、四人ツゝ彦部内ノ山谷ヲ探偵中ナリ、
金員送リ方ハ來月三、四日頃可相成、何分節減セラレ度候、右用事迄、早々
               野 村
  十一月廿八日
    長一殿
 
  【解説】「前略、本日手紙を受け取り安心した。夏頃話し合いがあったはず、この12月試験を受け、6月受けなかった分を補うことが出来る云々。きっとその辺準備していることだろうと推察している。どうであるか、全く大学1学年を2年にわたって修学する予定であるのか。

  かねて佐比内村の叔父様の世話で夏頃60円借りたのを督促され、今日米を売却して返済した。その他種々の方面から督促されており、できる限り返済するつもりである。

  目下彦部学校は昨日素建が成り、元の校舎を10間ばかり北ヘ引っぱり、前に東向き5間・10間の平屋2間の廊家を付け、来る12月半頃までに出来る見込みである。

  村治上も北校のため彦部全体村長の英断を称え、ことに屋号野上その他彦部の議員ら有志まで村長派という状況である。当春に比べ一変した心地である。

  日詰町の内城医者の二男であろうか、かねて肺患に罹っていた人が去る20日頃死亡した。

  明29日佐藤善太郎君は1年志願兵として弘前へ出発する。

  彦部では後庵の掛物即ち玉日の宮の画が盗難になり家宅捜索の結果、屋号HのS左ヱ門であることが発覚し、日詰警察署で取り調べ中に逃走、外数件あって、毎日警察から3、4人ずつ彦部内の山や谷を探偵中である。

  送金は来月3、4日頃になる。何分節約するようにせよ。右用事まで。早々」という内容。

  彦部の屋号後庵家は、浄土真宗開祖親鸞聖人の二十四輩第十番弟子是信房が親鸞の命により東北方面の布教のため岩手にやって来て、彦部の石ケ森山の下に本誓寺を建立布教につとめた。その際の従者の一人、橋本作内が茨城の稲田の西念寺を出掛けるときに親鸞聖人の妻玉日姫(恵信尼)から、自像を織った曼荼羅(まんだら)織りの掛軸をいただいてきたとのことで、代々受け継がれ家宝として現存している。当主は第50代という。ちなみにその昔は在家のお寺で「後庵山西念寺」と称したとのことである。

(県歌人クラブ副会長兼事務局長)


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