2009年 6月 17日 (水)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉72 及川彩子 50年ぶりの再会

     
   
     
  「ローマの修道院にいる妹が帰って来たから、会いにおいで」。アントニアおばさんから電話があったのは、緑濃くなる5月も終わりのことでした。

  わたしたち家族が、親戚付き合いをするパガニン家は11人姉妹の大家族。広大な放牧地を持つ大農家でしたが、家業を継いだのは次女のアントニア唯一人。今年78歳。数年前に、全ての牛を売り、今は学校の先生や商店を営む妹たちと助け合って生活しています。

  そんな姉妹の中に「若い頃に修道女になった妹がいる」と聞いたのは大分前のこと。電話の誘いに、子供たちを連れ、パガニン家に車を走らせました。

  姉妹たちがすでに集まっていて、修道服姿のレティツィアさん(写真中央)を紹介してくれました。ゆっくり歩み寄る仕草、穏やかな瞳、差し出された大きな手に、初めて会った人とは思えない親しみを感じました。

  今回の帰宅は50年ぶり。プラハの修道院での仕事帰り、ローマ行きの飛行機がヴェネチアに降り立ち、思いがけぬ1日帰宅が許されたのです。「神様の贈り物だわ!」と、みんなが目を潤ませて言うのでした。

  レティツィアさんは11人姉妹の5番目。子供の頃は一番のお転婆で、教会通いの姉妹たちとはいつも別行動。一人で野山を駆け回っていたそうです。それが中学を卒業すると、誰にも相談せずに、祈りの世界に入ることを選択したのです。

  修道院は、外界との交渉を断った別世界。家族を捨てることになるのです。パガニン家にとっては青天の霹靂(へきれき)。両親は泣く泣く娘の意志を尊重してくれましたが、アント二アだけは最後まで反対、見送りもしない別れだったそうです。

  「家のどこも昔のままでうれしい」というレティツィアさん。その隣で静かにパスタを練るアント二アが、心なしか小さく見えました。

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