2009年 6月 17日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉129 伊藤幸子 「ローリエの縁」

 月桂樹の枝を下さい ど
  うぞどうぞローリエの縁
  に結ばれて今も
  中島やよひ

 
  ことしの春は、歌人大西民子の話題に沸いた。4月9日〜5月31日、啄木賢治青春館にて大西民子展。4月26日、「大西民子の世界コンサート」、5月9日歌碑除幕式。さらに8日には川村杳平氏の「無告のうた」民子評伝書が出版され、好評発売中である。

  わたしは5月13日付盛岡タイムスのコラム「きららかに」と除幕式の新聞を「波濤」発行人の中島やよひさんにお送りしたところ、折り返し歌集「ローリエの縁」をちょうだいした。

  美しい本である。平成20年刊、あとがきに「第二歌集『風木』の掉尾(とうび)に『山上にアルプホルンを吹くは誰 登つておいで登つておいで』の一首を置きました。アルプホルンとして聞こえてくるのは大西民子先生の声。(中略)先生の挽歌も思うようにできず、また二年後の夫、その三カ月後の母の挽歌もできず、何のために歌を作ってきたのかとも思いました。そのことは、民子先生も、夫も母も、私が『波濤』に専念することでゆるして下さったように思われました」と、覚悟のほどを示される。

  「おし寄する本の渚に起居(たちゐ)してたどきなかりし民子をおもふ」「覚えゐてもうかくるなき電話番号楽しかりにしあかしとなさむ」挽歌切々。民子展での遺品の中には、中島さん命名の「お助け袋」というかわいい巾着もあった。こまごまとした身の回りの物が入れてあり、外側に安全ピンが三つほどとめてあった。わたしも似たようなことをしているので楽しく眺めた。民子の部屋の写真もあって、そこの電話は、もう鳴らないのだと寂しさがしみた。

  「キッチンにしごと見つけてとどまれるわれは何より逃避してゐむ」気がつけば一心にシンクを磨いていたり、おや、「十あまり二つと数へて聞きゐたり鳩時計の鳩はいつでも律義」ひとりの居間に律義な鳩の働きの音。「ブランコの下に楕円の窪みありここ蹴りて子はいづちゆきけむ」わたしの大好きな歌。ここ蹴りてゆきし日より、どこを着地点とするのだろうか。見上げれば「登っておいで」と声がする。そして「どうぞどうぞ、ローリエのえにし」のお声、たたずまい。わたしは中島さんにお会いする度に、民子の雰囲気を濃くなつかしく感じとっている。


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