2009年 6月 21日 (日)

       

■ 〈胡堂の父からの手紙〉221 八重嶋勲 大学から通学差し止めの通知がきたが

 ■291巻紙 明治41年12月6日付

宛 東京市麹町区飯田町四丁目三十一、               日松館発 岩手縣紫波郡彦部村
前畧去ル日金弐拾円耕次郎ニ差立為致タル筈定メ着手セシナラン、今大學ヨリ通学差止メノ通知ニ接シタリ、如何ノ訳ナルヤ、尤モ先月ハ十円不足ナレ共授業料迄ノ申越ニ依リ豫メ送金セシ筈ナルモ如此事柄如何ナル心得ナルヤ、全体目下通学ナルヤ否ヤモ疑シ、学生ハ名ノミ何ヲカ余事頭腦ヲ痛メ居ルナラズヤ、又ハ遊ヒ居ルニアラスヤ、如此一家族ヲクルシメ巨額ノ費消シアルニモ不拘不熱心ナルトキハ何ノ効ナカルベシ、廢学セシ方如此(何)ナルヤ、殊ニ本年夏試験後レモ秋追試験受ケ二學年ニモ可相成モノヲ其勇気モ不相見得如何ナル計画ナルカ、今頃三十面シナカラ普通ノ生徒ト歩調ヲ同時ニスル様ニテ到底目的ヲ達シ不能モノナルベシ、親ノ子ニ対スル義務モ充分ナラント想像被致如何ノ訳合ナルヤ、此状着次第目下ノ学校ノ都合ト状態目的等詳細報導スベシ、岩亀ノ手紙ノ如キ数日間ヲ要スルモノ無之ルベシ、之レヨリ打算スルモ何ニカ他事掛念シアルモノト被考候、今改ムルニアラザレバ生涯不用ノ長物ト相成、何ニモ詳細報導スベシ、
            野村
  長一殿
授業料ハ当方ヨリ直接法科大學ニ納付スル方可然ヤ、
若シ手元ニ送金セシナラ他ニ費消シ退校處分受クルヤ慮候、今弐十円不足ノ内十五円学校ヘ納(メ)、残金六円手元ニ送金セシナラ可ナラン、折返シ報知スベシ、親子ニアツテ信置シサル点多々アリ、治(況)ヤ他人学校初如此キ不信用ト相成ニ於テ他日何レノ社會ニ利用セラルゝ見込ミナルヤ、甚タ気ノ毒ニ被思候、
 
  【解説】「前略、さる日に20円耕次郎に差し立てさせたが、きっと着手したであろう。今大学から通学差し止めの通知に接した。いかなる訳か。もっとも先月は10円不足ではあったが授業料までという請求に、あらかじめ送金したはずであるが、このような事はどういう心得なのか。

  全体目下通学しているのかどうかも疑しい。学生は名のみで、何か余事に頭腦を痛めているのではないのか。または遊んでいるのではないか。このように一家族を苦しめ巨額を費消しているにもかかわらず、不熱心であっては何の効もないだろう。廃学する方はどうか。

  殊に本年の夏の試験を受けず、秋の追試験を受ければ2学年に進学できたものを、その勇気も見えず、どういう計画であるか。今頃30面しながら普通の生徒と歩調を同時にしているようでは到底目的を達っすることができないであろう。親の子に対する義務も充分であると思っているのに、どういう訳であるか。この手紙が着き次第、目下の学校の都合と状態、目的等詳細に知らせよ。

  岩亀前郡長の手紙のようなものに数日間を要するものでもないであろう。このことから推し量っても何か他事に心を掛けているものと考えられる。今改めなければ生涯不用の長物となってしまう。いずれにせよ詳細に知らせよ。

  (追伸)

  授業料は当方から直接法科大学に納付する方がよいのではないか。

  もし手元に送金したなら、他に費消してしまい、退校處分を受けるおそれがある。今20円不足の内15円を学校へ納め、残金6円を長一の手元に送金するのがいいのではないか。折り返し知らせよ。

  親子にあって信用が置けない点が多々あり、況や他人、学校初めこのような不信用となっては、他日どの社会に利用される見込みがあるか。甚だ気の毒に思われる。」という内容。

  さすがの父も、遂に堪忍袋の緒が切れた、という感じの一文である。しかし、底には温かいものが常に流れているのである。

  それにしても、家族の膏血を絞って送金される多額の金を、長一は、いったい何に使っているのであろうか。これは、随筆やほかの研究書等にも全く見当たらないから不思議である。

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