2009年 8月 4日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉46 望月善次 大空に傷が出ねば

 大空に傷が出ねばいゝが、べに色のあ
  んまり高い煙突がつったちて、
 
  〔現代語訳〕大空に傷が出なければいいのですが、紅色のあんまり高い煙突が厳しく立っていることによって。

  〔評釈〕「大空がまったく晴れておそろしや」三十二首〔『アザリア』第二輯(盛岡高等農林学校アザリア会、大正六年七月十八日)〕の十九首目。紅色の煙突によって(青く晴れ渡っている)大空に傷がつかなければいいとした、異形の作品。しかし、少し角度を変えれば、それほど深刻ではない(機知的な)理由付けによって一首を成立させるというのは、『古今和歌集』以来のもので、そうした意味では、伝統にさおさす一首とも言えよう。「つったち」は、言うまでもなく「突き立つ」の促音便。〔現代語訳〕では、「厳しく」を添えることによって「立つ」との違いを示そうとした。短歌の節調の上から言えば、第二句の「傷が出ねばいゝが」と結句の「煙突がつったちて」の字余りが破調の感じを与える。また、「いいが」、「あんまり」、「つったちて」等は口語的な表現であるから破調感(本来的には、短歌は、文語によらず、口語、方言、外来語等を包みこむ詩型であるが)を増幅させてもいる。
(盛岡大学学長)

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