2009年 8月 6日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉269 岩橋淳 「わたしのヒロシマ」

     
   
     
  その名の由来にはいくつかの説があるそうですが、この町をヒロシマ、と片仮名で呼ぶとき、多くの日本人が特別な思いに駆られます。初の原爆被爆地として、世界にその名を記憶させんがため、あえて音声に徹した呼称。けれど単なる「標的」とされ、そこに暮らす人や犬や馬や虫や草や木や、いっさいの生命を無視した無機的な響きも付いて回ります。

  作者は1933年、同地の生まれ。13歳のとき被爆しながらも奇跡的に生き永らえ、教師を経て、現在はオーストラリアで絵本作家として生活しています。本作は、美しい故郷・廣島の思い出が暗転、凄惨(せいさん)なヒロシマをさまようまでを、繊細なペンタッチで描いたもの。

  家族に愛され、穏やかに過ごした日々。いつしか忍び寄っていた、戦争の影。そして、運命の瞬間が訪れます。生々しい描写は抑えつつも、前半で語られたほの甘い思い出とのコントラストは、その時、読む者の脳裏に閃光や熱や浴びせ、無数のガラス破片を突き刺します。

  作者の暮らすオーストラリアでは、多くの小・中学校に本作が納められているといいます。ヒロシマ、に込められた千万の思いは、むしろ海の向こう、発信を続けているのです。

 【今週の絵本】『わたしのヒロシマ』森本順子/作・絵、金の星社/刊、1260円(税込み)(1987年)


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