2009年 8月 27日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉272 岩橋淳 うみ

     
   
     
  大判の本書を、海の雄大さに期待しつつ開くと、見返しには海の唄の詞。…中原中也、与謝蕪村、島崎藤村、金子みすゞ、松尾芭蕉、…唱歌にとどまらず詩歌や俳句、古歌にいたるまで、日本人の、海への憧憬や畏(おそ)れや、望郷が歌いこまれた名編が散りばめられています。

  作品自体はまごうかたなきアメリカ絵本の翻訳なのですが、翻訳を担当した詩人・くどうなおこさんによるアレンジか(それらの詞は本文中にも背景「画」としてあしらわれています)、海という、日本人にとっての詩情の源ともいうべき存在についてのさまざまなフレーズが、まず、読者の記憶を掘り起こす働きを務めているのです。

  本編はと言えば、作者の持ち味である素朴な戯画風のタッチで、海の存在感や人とのかかわりについて、荒れることやなぐこと、月の引力による満ち引き、はぐくまれているたくさんの生命のことなどが語られていきます。

  効果的に挟み込みこまれた、たぷたぷ、ざぶり、といった擬音、テンポよく読ませる訳者ならではの技巧、さらには地の文を「書き文字」でつづった視覚効果と相まって、ともすれば(例えば実景写真などで構成すれば)「科学絵本」ともなりうる本作を、詩情豊かな文芸作品として成立させています。

  巻末の見開きに、柿本人麻呂、源実朝、北原白秋、野口雨情の徹底ぶりで、勝負あり。

  【今週の絵本】『うみ Atlantic』G・B・カラス/作・絵、くどうなおこ/訳、近江卓/監修、フレーベル館/刊、1365円(税込み)(2002年)

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