2009年 8月 29日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉112 南本内岳(みなみほんないだけ 1486メートル)

     
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  「南本内岳山頂」と刻んだ標柱は、ある日突然立てられた。南本内岳が西和賀町最南端の山としてデビューしたのが昭和40年代だから、つい、40年前のことである。どういうわけか、最高点の1492bよりやや低い1486bの尾根の突端で、北東に300bずれた場所だった。

  焼石岳から眺めると、北側に続く草原状の枝尾根にみえる。また、西側の大湿原から見上げれば、池塘(ちとう)を囲む外輪の一部のようにも感じられる。ところが、登ってビックリ!何ら変哲もないと思われたこの高みの魅力は数知れず。ここでは、二つに絞ってご紹介しようと思う。

  その1、ピークからの大展望|すぐ南に三角定規の頭をのせた焼石岳。和賀郡湯田・胆沢郡胆沢・秋田雄勝郡東成瀬村の3つの郡境をなす三界山が、西に堂々と座している。そこから視線を転ずれば、牛形山は北東、ついで東の経塚山へとパノラマ展望が開く。むろん、均整のとれたシルエットは鳥海山だ。

  その2、豊富な植生|鮮やかな黄色がリュウキンカとミヤマキンバイ、キヌガサソウは白い大輪、レースの縁取りはイワイチョウとミツガシワだ。ヒメコザクラ、フウロ…あれこれ花の種類を数えあげたらキリがない。

  花の愛らしさに、ついシャッターを切りたくなるが、趣向をかえて虫メガネで覗(のぞ)くのも一興ではあるまいか。ハチのように、アリのように、未知の異界へ潜りこんでみよう。可憐(かれん)な小花の中に、とてつもない宇宙が息づき、極彩色の氾濫(はんらん)がある。

  南本内岳で私は「ザゼンソウ」を初めて見た。花穂を包むアズキ色の仏炎苞(ぶつえんほう)を、座禅する達磨大志に見立てたとおり、いかにも品よく仏さまのようにありがたく咲く。しかし、「これって何!まるで小さな恐竜じゃないか」私の目は困惑のまんま、その暗赤色に、仏炎苞に、花穂に、くぎ付けだった。
 
  登路は4つある。東成瀬村コースは、国道397号の大森トンネルを抜けてまもなく右折し、焼石岳登山道を行く。湯田コースは、錦秋湖沿いの国道107号から天ヶ瀬橋を渡り、峠山パークランドへ進み、道標にしたがって10`bの砂利道を南本内岳登山口へ。

  また、縦走ならば焼石岳や経塚山から入る。どのコースを選んでも、点在する沼や池塘や沢沿いで、花々の群落が大歓迎してくれるだろう。

  豊富な植生。360度のロケーション。これが南本内岳の本領である。南本内川の水流をつかさどる雪田の頂は、その一滴を和賀川から北上川へとつないでいく。

(版画家、盛岡市在住)

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