2009年 10月 8日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉72 望月善次 わが顔をだらだら

 わが顔をだらだら落つる汗なれど 地
  上に落ちてあとを止めず
 
  〔現代語訳〕私の顔をだらだらと落ちる汗ですけれど、地上に落ちて跡を残すようなことはないのです。

  〔評釈〕「山に向へば」十首の三首目〔『アザリア』第三輯(盛岡高農アザリア会、大正六年十月十七日)〕。夏の盛りを「だらだらと」落ちる汗。「玉の汗」や「滝のような汗」の表現もあるが、激しく出る汗も地上に落ちて跡を残すようなことはない。因みに「だらだら」は「いくらか粘り気のある液体が途切れることなく滴り落ちる用。」〔『暮らしのことば擬音語・擬態語辞典』〕で「汗」の場合は、類似語の「たらたら(液体が途切れることなく静かに滴り落ちる様子)」が用いられることも多い。いずれにしても、多量の汗なのに、地上に跡などを止めない不思議さを「軽く」扱ってみせたところが一首の手間。ところで、嘉内が愛唱した啄木短歌には「ひと塊(くれ)の土に涎(よだれ)し/泣く母の肖顔(にがほ)つくりぬ/かなしくもあるか」〔『一握の砂』12〕があり、「涎が肖顔を作るほど出たのか。」という問いを与えるすきもなく、作者自身の世界に引き込んでしまう手際を見せている。
(盛岡大学学長)

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