2009年 10月 10日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉73 望月善次 汗や、汗や、せっかく

 汗や、汗や、せっかく落ちしものなれ
  ば少しは地上にあとを止めよ
 
  〔現代語訳〕汗よ、汗よや、せっかく落ちたしものだったら、少しは地上に跡を止めてほしいものです。

  〔評釈〕「山に向へば」十首の四首目〔『アザリア』第三輯(盛岡高農アザリア会、大正六年十月十七日)〕。前回取り上げた「わが顔をだらだら落つる汗なれど 地上に落ちてあとを止めず」に続く作品。両者とも、何と言っても、その〈軽妙さ〉が持ち味。〈軽妙さ〉が生命線であるから、例えば、「汗はどの位落ちるものか。」、「それが、地上に跡を止める可能性はどの程度か。」などと正面から対応するのは、基本的には野暮の骨頂。「そうだよねぇ。あんなに物凄い汗なんだから、地上にも少しは跡を残してもいいよねぇ。あっはっは。」と笑い合うのがオーソドックスな鑑賞法。(もちろん、オーソドックスを破るのが、文学の重要な機能であるから、当然のことながら、オーソドックスではない分析・鑑賞を否定するものではない。念のため。)いずれにしても、こんな作品を出して楽しみ合う場が『アザリア』の中にはあったのであり、嘉内はそうした方面を引っ張る一人であったのである。
(盛岡大学学長)

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