2009年 12月 3日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉286 岩橋淳 ふしぎなでまえ

     
   
     
  今となっては表紙のような「岡持ち」なんてのも珍しいかも知れません。出前、は「デリバリー」と呼ばれ、さらに「店屋もの」に至っては、ピンとくる若い人は?

  さて、上からラーメン、カレーライス、おすし。…この三者が同じ岡持ちに入っていることの怪しさ。すでに「何ごとか」は起こりつつあるのです。

  地上の万物を擬人化(しかも肉感的!)して評判をさらった作者ですが、好んで描くのも、だるま、おもち、やかん…、最先端と言うよりは、どこか垢(あか)抜けない、だからこそ憑依(ひょうい)のしやすそうな、言い換えれば血の通った、どこか懐かしい面々。本作も、主人公は四畳半一間に暮らす、倦怠期を迎えたような風情のじゃがいも・さつまいもカップル。

  ゴロゴロと怠惰な生活に慣れきって、腹は減れども料理への意欲はなし。当然の成り行きで出前を取ることに決して、来々軒にはラーメンとカレーライス、銀寿司には握り、天吉には天丼をオーダー(よく食うこと)。ところが、来々軒から届いたのは、カラの丼。しかも開口一番、「きょうはごちそうしてくださるそうで」。えーっ!?

  怠惰が一転、料理バトルさながらの展開に持ち込まれる、緩急の妙。ファンタジーと呼ぶよりは、どこかうさんくさげな懐かしさ。オトナのツボを押さえつつ、こどもの喜ばせ方も心得た作者の術中に、つるつるっと引き込まれてしまう一冊です。
  【今週の絵本】『ふしぎなでまえ』かがくい ひろし/作、講談社/刊、1575円(2008年)

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