2009年 12月 5日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉92 望月善次 よっくよっく頭がわるく

 よっくよっく頭がわるく生れたれば
  洗はんとして試験管わる
 
  〔現代語訳〕本当に頭が悪く生まれたので、洗おうとして試験管を割ったのです。

  〔評釈〕「寂れたる空」十首〔『アザリア』三号〕の四首目の作品で、ここから「(試験管わりのうた)」が六首続く。「試験管わりのうた」という小題に接すると、改めて嘉内や賢治は、(当時の自然科学の先端でもあった)農芸化学等の理系の基礎訓練を受けた人たちだったことが分かる。評者などの文系人間とは基本的教養が違っていたのだとつくづく思う。「よっくよっく」は「よくよく(善く善く、能く能く)」を促音化させたもの。こうした口語的語彙の取り入れも作者の工夫の一つ。「試験管を割ること」は、必ずしも「頭の善し悪し」に関係しない〔例えば、友人の「優等生」賢治にしても、関研究室において、研究生時代に心が実験補助から離れていたとはいえ、「天秤の皿に硫酸を附着せしめ或はガスの栓を閉ぢずして帰り」などの失敗をしている。(書簡70、大正七年六月二十日、政次郎宛)〕。あえて言えば、関係ないからこそ「頭がわるく生れたれば」によって作品となったのである。

(盛岡大学学長)

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