2009年 12月 12日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉119 犬倉山(いぬくらやま、1408メートル)

 
     
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 12月、刈りいれの終わった雫石平野は、白黒ツートンカラーのダンダラ模様だ。網張の青白い山ひだに、いく筋ものゲレンデが大河のごとく浮きでている。凛として、白い犬倉山が聳(そび)えていた。
  雪を冠った犬倉山は白きオオカミであろう。それも並の狼ではない。俊敏で賢い。どこからともなく忍びより、雪解けとともにミドリの森へと走り去る。なにごとも恐れはしない森の王だ。今年も、ウィンターシーズンの到来を告げに、あの白いオオカミがやって来た。

  「山犬」は和名で「オオカミ」のこと。「倉」が「ガケ」の意味であり、これらが合体して犬倉山という。雫石側から眺めると、犬倉の肩と山頂は尖(とが)った両耳に見える。白い犬倉山は、峻烈(しゅんれつ)なその白いボディーをいっそう誇示するのである。犬倉を眺めよ!さらば登りたくなろう。滑りたくもなろう。
 
  そもそも犬倉山の南面は爆裂でできた大断崖で、山頂直下の1150b付近に源泉を噴きだしている。網張温泉に良質な源泉を供給する網張元湯だ。これに端を発する湯ノ沢は、有根沢と合流したのち葛根田川へとそそぐ。

  かなり前の話だが、温泉施設の裏から元湯を経由し、犬倉の肩にまっすぐ上がる便利な夏ルートがあった。リフトを避け、たまに私も利用した。しかし、この最短ルートは閉鎖され通行禁止になった。滑る足元に泣かされ、クマや有毒ガスにハラハラするなど、今思えばスリリングで危険な路だったと思う。

  現在は、網張スキー場のリフト3基で、標高765bから1300bへと高度を一気にかせぐ。途中の展望地から足下をのぞけば、硫黄のにおいがプ〜ンと鼻を突く。リフト終点から40分で山頂という手軽さもあり、お天気のいい日はハイキングや紅葉狩りの家族連れでにぎわう。

  さて、登山に物足りないという岳人には、冬こそおすすめである。スノーシューや輪かんでハイクする。山スキーやテレマークスキーなら、オフピステの雪面を駈ける醍醐味が味わえよう。

  第3リフトの上部へ上がり、そこから犬倉のピークを目指す。南面の断崖を踏み外さないよう樹間にコースを取って慎重に進む。山頂直下に雨量観測の小屋がある。ゲレンデに戻らず、尾根続きの鎌倉森経由でビジターセンターに下ってもよい。キャンプ場を目がけブナの林を下るが、鎌倉森の山頂には2本の鎌(セッピ)がV字形に発達するので、西側の鎌へまちがいなく進路をとること。

  犬倉山は雪国岩手の使者である。いつの間にか、冬の門口に立っている。

(版画家、盛岡市在住)

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