2009年 12月 16日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉155 伊藤幸子 「さらば義経」

 源平は絵になるやうに戦をし
岡田三面子

  年末恒例の盛岡文士劇を見て、笑って年を忘れる。12月6日、わたしはことしも盛岡劇場の千秋楽の客席に居た。第15回記念公演、演物(だしもの)は現代版「きんらんどんすの帯しめながら」と時代劇「源義経」である。

  そしてことしも、嬉しい対面をした。平成18年の千秋楽に、一緒の席のNさんがロビーでしきりにあるご婦人と話しておられた。聞けば当日の主人公、新撰組隊士の鉄之進役の利根川真也さんのお母様とのこと。なんと、今回その再現が叶ったのだ。今宵は利根川義経を応援に、ご家族総出で山梨や岐阜からいらしていて、こちらもNさんと一緒の席。劇の始まる前から芝居好きの話で盛り上がった。

  それにしても回を重ねて15回、今や素人の域ではない。「きんらんどんす」の現代劇では全体にゆきわたる「間」のとり方が実に快く、大ベテランの畑中さんの軽妙なトークが舞台をひきしめる。画家の勝治と町内会長と碁を打ちながらの会話はごく自然体で、明日もあさってもこのままの日常がすぎてゆくような安定感があった。まさに小津安二郎の世界到来と感じ入った。そして娘を嫁がせる父親の心情が、大塚アナの飄々とした演技によく表れて思わず涙しそうになった。長年「せりふ忘れ」を看板に、笑いをとってこられたが実はそれもみんな演出上の効果であろうと思われる。客席をどっと笑わせて、内でほろりと心の綻(ほころ)びを覗かせるような熟練の俳優さんに感銘。

  さて歴史に残る源平合戦はいずれも絵になる名場面、義経ファンにはたまらない魅力だ。今回は平泉屋形の絢爛さに度肝をぬかれた。橋座長貫祿の秀衡公。一族存亡の危うい役どころ泰衡を村松アナが好演。谷藤市長ふんする北条時政の胸のすく剣さばきはさすがだった。

  火花を散らす激しい立ち回り。壮麗な甲胄に身を固めた義経の働き、斎藤純弁慶の長槍をさばく音が風を伴って客席まで伝わる。すさまじい戦闘シーンをかいくぐり、長柄(ながえ)に乗った義経迫真の見得には息をのむ美しさ!大喝采。義経主従は衣川で果てず「さらば義経、運命の子よ」と、秀衡の声に送られて平泉を去ってゆく。生きよ義経、花道に未来を恃(たの)む柝の音が鳴った。

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