2009年 12月 17日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉288 岩橋淳 おとうさんのちず

     
   
     
  早暁の静謐(せいひつ)を描いた名作「よあけ」で知られる作者(1935〜)ですが、この世代、ことにヨーロッパ出身の作家のほとんどは、第2次世界大戦の戦火に転変を余儀なくされた経験を持っています。幼かったシュルヴィッツ氏が祖国ポーランドを離れ、数カ国を経てアメリカに落ち着いたのは戦後15年を経た1959年。20年におよぶ放浪、自らの安住の地を求め、探し当てるまでの苦労は、体験者でなければ解らないことでしょう。

  本作は、当時(4〜5歳)の体験をつづったもの。かつて「北のパリ」と呼ばれたワルシャワの炎上から逃れ、親子3人、身ひとつでたどり着いた中央アジアの街でのできごとです。

  文字通りの食うや食わず、土を固めた床に他人と共に寝起きする生活。そんなある日、食糧を求めて出かけたはずのお父さんが持ち帰ったのは、1枚の世界地図でした。命の綱、貴重な食べ物に代えてまで土の壁に地図を張ったお父さんの意図は?

  地図を眺めるということが、いつしか少年の空想をかき立てます。居ながらにしての世界旅行。…落胆からお父さんの非難へと心を揺らした彼がやがて気付いたのは、未知の国への興味が、未来への希望へと変化していったこと。目の前の1片のパンよりも、心の豊かさを失わないことの大切さだったのです。

  ワルシャワ時代に絵を描くことの楽しさを教えてくれた父親の、わが子への思い。ずしりと響くのです。

  【今週の絵本】『おとうさんの ちず』U・シュルヴィッツ/作、さくまゆみこ/訳、あすなろ書房/刊、1575円(2008年)

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