2010年 1月 5日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉104 望月善次 京染の君がまあかき

 京染の君がまあかき、長襦袢、しどろ
  もどろに君はいきせり、
 
  〔現代語訳〕あなたの着ている京染の真っ赤な長襦袢(の艶めかしさ)よ。あなたは、(艶めかしく)乱れ乱れた息をしています。

  〔評釈〕「明烏春泡雪」十三首〔『アザリア』四号(大正六年十二月十六日)〕の冒頭歌。直前に置かれた「紅隈の大荒事」五首に引き続いて、ここからの十三首も歌舞伎に関する作品が並ぶ。「明烏春泡雪」は、江戸時代(明和年間)に起きた三河島の心中事件を素材にしたもので、作品の世界では吉原の遊女浦里と時次郎とが絡んだ展開となる。題名「明烏春泡雪」は、その「明け烏(夜明け方に鳴くカラス)の鳴く、泡雪の中での道行」による。歌舞伎より先行した新内には「明烏夢泡雪」(もちろん、この題名の歌舞伎もある)があり、これらをパロディー的にもじった落語「明烏」も良く知られている。抽出歌の対象は、「浦里部屋の場」の浦里か。評者が直接目にし得た「早稲田大学演劇博物館浮世絵閲覧システム」における明治二十七年の中村福助演ずる浦里の画像から見ても、艶かしさはある程度類推できる。が、結句にかけての「しどろもどろに君はいきせり」は、いかにも強引である。
(盛岡大学学長)

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