2010年 1月 6日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉158 伊藤幸子 年賀状

 添へ書きはみな声もちて 年賀状
鷹羽狩行
 
  21世紀も10年を迎えた。書くときはおっくうでも、もらってうれしい年賀状。それも印刷定型文のわきに、2、3行添え書きがあると親しく語りかけてくるようで心が浮きたつ。

  新しい年の読み初めに、鷹羽狩行句集「十五峯」をひもといた。平成20年第23回「詩歌文学館賞」と、第42回「蛇笏賞」をダブル受賞。昭和5年山形生まれの氏は戦後21年から句作。ほぼ3年に1冊ずつ句集を発行。しかも数字のついた題名で、15冊目の「十五峯」の由。

  「七人は重たからずや宝船」また「初夢をさしさはりなきところまで」「七十と三の若さよ宝船」めでたくて、すがしくて。七福神は女人ひとりの位置ゆえに、船が傾いたりはせぬか。傾城はあれど「傾船」は知らず、神々の饗宴はほがらほがらにたけてゆく。「なかきよのとおのねふりのみなめさめなみのりふねのおとのよきかな」のおまじない歌も、今ではお笑いのネタにされるぐらいで、信心もうすれてきているが、よい夢は口外すべからず「夢買い橋」のたとえもある。なにごとも「さしさはりなきところまで」で止めておくのが賢明といえようか。

  私は平成20年5月、詩歌文学館賞贈賞式に出席し、鷹羽氏の受賞が選考委員全員一致で決まったこと、総句数437句中350を越える季題が登場し「季題の魔術師」のようだと評されたことに驚いた。さりとてこの本のどこにも難解な句はひとつもない。平明なことばでスーッと心にしみこみ、じんわりと句の奥深さ、あたたかさに包まれる。

  「うしろ手に閉めし襖の山河かな」「さかづきの底絵あやしき年忘(としわすれ)」「亀鳴くや人老いて去り富みて去り」朱塗りの盃に鶴亀の絵が酒に浮き出る趣はたまに見かけるが、ある古美術のコーナーで、あやしき底絵を見たときは「眼福」というには若すぎた。さりげなく「人老いて去り富みて去り」の含蓄が人を唸(うな)らせる。

  さてさて正月三が日もすぎた。「もの書けるわれを見上げて夜の蟻」の親しさに微笑み、卓の賀状に目を移すと「一回の人生だ。一回限りの文学の力をつくせ」との尊敬する作家の添え書きが私を奮い立たせてくれた。

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