2010年 1月 12日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉87 及川彩子 ヴェニスの商人の舞台

     
   
     
  年が明け、久しぶりに家族連れでべネチアを訪ね、ユダヤ人街を見て回りました。

  ユダヤ民族は、旧約聖書に、ヘブライ人として登場以来、世界を放浪する民として、近代資本主義の勃興と共に実力を蓄え、財力・科学・文学・芸術に寄与してきました。

  そして、アインシュタインはじめフロイト、メンデルスゾーン、マーラー、米映画界のスピルバーグと、多くの人材を輩出したのです。

  町外れのユダヤ人街「ゲットー」は、かつて銅の鋳造工場の廃棄物捨て場でした。イタリア語の「ゲッターレ」は鋳造。これがもとになり、世界中のユダヤ人街も「ゲットー」と呼ばれるようになったのです。

  「ゲットー入り口」と小さく書かれた案内板を見つけ、細い路地を進むと、ヘブライの伝統菓子屋、宗教の書店などがひっそり並んでいました。

  かつて、キリスト教社会でのユダヤ人は、政治家や土地を所有する農家などの職業が認められなかったため、シェークスピアの喜劇「ヴェニスの商人」に代表されるように、疎まれていた高利貸しが主な生業でした。

  そのため、外出時間の制限や黄色いマフラー着用などの差別を受けますが、一方、知的生産力の高さから、薬草専売のユダヤ人から名医が生まれ、名門パドヴァ大学医学部の礎になったのです。

  そんな二面性を押し隠すような古い街並みの角に、ユダヤ教会(シナゴク)がありました。見学グループと一緒に回ると、当時のバロック様式を駆使した木彫り装飾の祭壇、オペラ劇場をまねた設計、エルサレムを想起させるデザインなど、「大理石の使用も、荘厳な建築も禁止」という制約の中に、独特の世界が広がっているのです。

  外から見ると、教会は粗末な木造の張出し部屋(写真中央)で、まさに見せかけ。国がなくとも滅びることのない、見かけより精神で生き抜く姿を垣間見たような気がしました。


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