2010年 1月 13日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉159 伊藤幸子 「早口ことば」

 ひとよねて憂しとらこそは思ひけめ浮名たつ身ぞわびしかりける
拾遺和歌集
 
  十二支を詠みこんだもので、読み人知らず。「ね、うし、とら、う、たつ、み」までが入り、もう一首「むまれよりひつじつくれば山にさるひとりいぬるに人ゐていませ」とセットになっている。お正月らしい話題に大勢集ったとき披露して大いに笑った。いろは四十八文字もそうだが、よくあんなにだぶらないように、やまとうたに仕立てたものとつくづく感心させられる。

  正月芝居の代表格は古来曽我物と決まっているが、アナウンサーの訓練教材に「五郎が五両十郎が十両」といっているのを聞いた。早口ことば、テレビでは市川團十郎さんが「助六」の解説をされていた。歌舞伎座の正月公演を思いつつわたしは成田屋の「外郎売(ういろうう)り」を思い起こした。みごとな長台詞がきかせどころ。「ぶぐばぐ武具馬具 三(み)武具馬具 あわせて武具馬具 六(む)武具馬具」など、よくもあれだけ滑舌がきたえられるものだ。

  ちょうどそんな早口ことばをひとりでぶつぶつ言っているところに電話が鳴った。兵庫の方で、「じゃ、こんなんはどうです?」と教えてくれた一句。「おもしろ しよしやさん かれまつのゆき」文字にすれば「面白書写山枯松雪」読みは「おもしろし よしやさむかれまつのゆき」とひねる。姫路は西比叡山と呼ばれている天台寺円教寺のある有名な書写山。あちらでは古くなじんでおられる山だからスラスラ発音されるが、「エッ、しよしやしやん?しよさしん?」ともつれにもつれて笑われた。彼の方はことしは後期高齢を迎えるので、せいぜい発音を清くしようと言われる。

  ところで東北人には実に難儀な言葉がある。「山の猪(しし) 屋根の煤(すす) 小鰭(こはだ)の鮨(すし)に 帯の繻子(しゅす)」これを早口でといわれたら江戸っ子でも口がすっぱくなるかもしれない。「このクギはひきぬきにくい」も言いにくい。

  久々に家族のそろったお正月。こたつもせまいばかりに人が集まり会話が弾んだ。わたしはだじゃれが大好き、ことわざもいい。早口言葉はかたずをのんで話者の口もとを見つめたい。昔話も伝説も大歓迎。声をあげ顔を見て、テレビの大画面よりもはるかに楽しい時間だった。

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