2010年 2月 4日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉116 望月善次 市川の大荒事の紅隈に

 市川の大荒事の紅隈に富香のかんざ
  し、銀にゆれつゝ
 
  〔現代語訳〕市川(團十郎)家の(誇張的表現である「荒事」のうちでも極め付きの)「大荒事」における隈取の中でも正義・力を示す紅色の隈取の「紅隈」に対応するように、富香の簪(かんざし)は銀の光を放っています。

  〔評釈〕「明烏春泡雪」十三首〔『アザリア』四号(大正六年十二月十六日)〕の最終歌。まず、歌舞伎知識のなさによる「素人の悲しさ」は、遂に最終歌まで引きずることになっていることをおわびしたい。抽出歌の具体に即して言うと、「明烏春泡雪」の七首目の「本郷の振袖火事の吉三郎、富香がまくは麗しき衣、」でも言及したが、「富香」が相変わらず不明なのである。素人の、おそらくは要領を得ない質問に丁寧に応えてくださった早稲田大学坪内逍遙記念演劇博物館、松竹大谷図書館、岩手県立図書館の関係者の方々にも記して感謝したい。一首の眼目は、「紅隈」と「富香の銀の簪」との対比にある。意味を通りやすくするために、既に〔現代語訳〕の中にも組み入れてあるが、市川團十郎家(成田屋)のお家芸である「荒事」の極みである「大荒事」の象徴でもある「紅隈」と「富香の銀の簪」との対比は、それらに関する知識の深さの如何によって、感動にも影響を与えることになろう。
(盛岡大学学長)


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